因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

てっぽう玉公演『満ち足りた散歩者』

2006-11-15 | 舞台
*佃典彦(B級遊撃隊)作 蓬莱竜太演出 「劇」小劇場 公演は12日で終了 公式サイトはこちら
 舞台と客席の空気が交じり合わないと、客席は居心地の悪いものになる。物語は男1(塩野谷正幸)と男2(直井おさむ)の会話から始まる。男2が慢性腎不全で、これからの体調管理が大変らしいという話題が何度も繰り返され、その間男2はずっとノミで木を掘っている。男1は部屋にお稲荷さんを作っており、近所の人がときどきお参りにくる。男2は男1の命を狙っている。近くに消費者金融会社があって、そこの経理をしている女1(麻乃佳世)には外国人の彼氏がいるという。その彼は航空会社を経営し、世界中を飛び回っている実業家らしい。金融会社の若い営業マンは仕事帰りに何者かに襲われる、団子屋のおかみさんは賽銭箱から手が抜けなくなる。いなくなった愛猫の行方を調べてほしいとお稲荷さんに日参する女がいる。いくつかの筋が同時進行しつつ、どこかで収斂するのかとそうでもなく、この舞台のどこに視点をもっていけばよいのか最後までわからず、あいまいな気分のまま終演になってしまった。

 この作品には、同じ会話や動作が何度も繰り返される場面がある。冒頭の腎不全の会話、「結婚詐欺にかかりやすい女性の特徴」(だったかな?)をめぐる会話、女1とその彼氏(加地竜也)との執拗な抱擁場面など。一向に進まない会話のもどかしさや、そこから生まれるおかしみを描こうとしているようにも思えなかったし、「くどい」ことで何か効果を生んでいるとも感じられなかった。彼氏の造形にしても、外国人(前の会話で漠然と欧米人だという印象を与えている)には到底見えないし、いんちき臭い人物であることがひと目でわかる。だったらなぜ女1が会社のお金を横領してまでもこの男に貢ぐのか。「どうしてこんな男に」という印象すら伝わってこない。適切ではないかもしれないが、フジテレビ放送の『のだめカンタービレ』に竹中直人演じる外国人指揮者を例に挙げよう。どうみても竹中直人にしかみえないのに、ドラマの中では外国人として了解されている。強引、無理矢理といえばそうなのだが、ここにはドラマを作る上で何か一段突き抜けたところがあるから、いっそ清々しく楽しめるのである。


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