因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ユニット・トラージ『アチャコ』

2009-04-09 | 舞台
*北村想作 小林正和演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 12日まで
 北村想の作品、プロジェクト・ナビの舞台にせっせと通っていたのは、もう20年以上前のことだ。自分は『ザ・シェルター』や『想稿 銀河鉄道の夜』が特に好きであった。素朴でとぼけた味わい、ファンタジックな雰囲気のなかに、人が生きるために何が大切かをさりげなく描いていて、見終わったあと優しく温かな気持ちになれる。いつのまにか足が遠のき、久しぶりにみた北村想の舞台は、言われなければ誰の作品かわからないほどであった。や、これはいったいどう表現すればいいのか。
 アダルト小説家・大河内伝三郎先生(土居辰男/ジャブジャブサーキット)が、一番弟子(渡山博崇/星の女子さん)の沸かすドラム缶風呂にゆったり浸かっているところに、新作を読んで欲しいと二番弟子(空沢しんか)がやってくる。先生は入浴中で読めないため、二番弟子は小説のリーディングを始める。その内容が大変アダルトなのだが、空沢しんかの口調は静かで抑制が効いており、まったく下品に聴こえない。本人が言うとおり純文学の香りすら漂わせる。そこにやってくる女性編集者(斉藤やよい/B級遊撃隊)は、一見知的で上品な美人だが大河内先生の担当だけにものすごいことをさらっと言ったりする。さらに弟子入り志願の女性(ジル豆田/てんぷくプロ)もやってきて、ときどき黒子のように演出の小林正和も顔を出し…台詞だけを取り出すと下品、猥褻、悪のり、意味不明、支離滅裂とマイナスイメージが次々に沸いてくるが、目の前の舞台はえも言われぬ格調が(ほんとうです)感じられて、具体的にどういうことかと考えると、それを的確に言い表す言葉を今夜の自分は持ち合わせていないのだった。

 いったい北村想に何が起こったのか。

 若い劇団の舞台をみていて、「俳優やスタッフは、自分たちの作っている作品がどういうものかわかっているのだろうか」と疑問を抱くことがある。今回の『アチャコ』に対して、その印象はなかった。俳優の演技は隙がなく台詞、立ち回り(少し)、踊りや歌含め北村想の戯曲をきちんと受け止め、何とか形にしたいという熱意と努力の跡が感じられた。演出の小林正和の苦労が偲ばれ、何とか多くの人にみてもらいたいと思う反面、万人受けする内容、表現ではなく、うっかり勧められないことも確かである。困った。しかし困ってあれこれ考えるのが案外楽しいのである。『アチャコ』効果なり。

 
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