因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パルコ劇場『海をゆく者』

2009-11-14 | 舞台

*コナー・マクファーソン作 小田島恒志翻訳 栗山民也演出 公式サイトはこちら パルコ劇場 12月8日まで そのあと大阪、新潟、名古屋を巡演

 5人の男たちがともかくよく飲み、よくしゃべる話である。15分の休憩をはさんでほぼ3時間近く、何とまぁ。小日向文世、吉田鋼太郎、浅野和之、大谷亮介、平田満。いずれも百戦錬磨のつわもの揃い。モノクロのチラシを見ただけでずっしりした重量感が伝わってくる。しかし物語はクリスマスイヴの朝からダブリン北部の海沿いの町にある古びた家に住む独身の兄弟と、その友達がひたすらぐだぐだと飲みながらさほど重要でもなさそうなことをしゃべり続けるばかり。やがて友達の一人が見知らぬ男を連れてきてカードゲームが始まる。

 不思議なほど集中して舞台に見入っている自分に気づく。まったく疲れず眠気も起きない。自分だけではなく客席ぜんたいに緊張感が漲っている。戯曲と俳優と劇場のバランスがとてもいいのだと思う。うまく表現できないが、舞台と客席が隙間なく、みっしり詰まっている、埋まっている感じがする。

 5人の俳優は大健闘である。吉田鋼太郎は張り倒したいくらいうっとうしく(芝居とはいえどうにかなりませんか、ほんとうに)、平田満にもイライラするし、浅野和之は終始落ち着きがなく、大谷亮介も途中から出てきてうるさいし(ひどい言い方だ…)、クリスマスイヴだというのに朝から大酒を飲んで些細なことで諍いをして、部屋も散らかり、からだも不潔。皆いい年をしてどうしようもない、ほんとにどうしようもない。最後の登場する小日向文世が唯一紳士らしい風貌だが、実は彼が大変な食わせ者だったのである。

 月並みな言い方になるが、舞台からほんとうに安物のウィスキーの匂いやそのほかの匂い(書けません)が漂ってくるようだ。この5人の俳優さんのどなたかが『ブラックバード』のレイを演じてくれたなら…と未練がましいことを考えたりもした。舞台に小日向と平田の2人だけが残ったときの不気味なまでの緊張感、最後の最後のどんでん返しに、かの国のクリスマスの温かみが少しだけ伝わる。

 題名が象徴するものや小日向と平田の関係など、一度みただけでは理解しにくい面はある。家を去るときに、小日向が壁に掛けられたキリストの絵に一瞬目を背ける仕草、平田に届いたクリスマスカードには何と書いてあったのか。たぶん戯曲を読んでもわからないだろう。よくしゃべるくせに、彼らは肝心なことは黙っているのである。5人の男たちの酔いっぷりや馬鹿さ加減をこれでもかというくらい堪能できた。自分もちょっと飲みたくなり、帰宅して一杯やる。これは祝杯だ。飲んだくれのどうしようもない男たちにクリスマスの祝福あれ。

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