*古川健作 日澤雄介演出 サンモールスタジオ特別提携公演 公式サイトはこちら 新宿御苑サンモールスタジオ 『あの日の記憶の記録』と交互上演 31日まで (1,2)
昨年秋に渋谷ルデコで初演された作品が、「CoRich舞台芸術アワード!2012」で第1位を獲得して早々に再演のお披露目となった。今月はじめ、日本演出家協会主催の若手演出家コンクール2012において、演出の日澤雄介が『親愛なる我が総統』(古川健作)で最優秀賞を受賞した勢いもあって、いまやチョコレートケーキは注目度急上昇の劇団だ。
演技エリアを客席が3方向から囲むつくりになっている上、場内数か所の通路を俳優が通るという。場内は暗く、壁にはハーケンクロイツのついた赤い旗が何本もさがっている。開幕すると、さきほどまで観客の出入り口だった階段に、ミュンヘン一揆に関する裁判の被告であるヒトラー(西尾友樹)が立って大演説をはじめ、聴衆の心をつかむ。やがてナチスが再結成されて国政選挙で第一党となり、ヒトラーが首相に就任して独裁体制を確立するまでの、まさに熱狂の様相が描かれる120分だ。
ヒトラー役の西尾友樹が大熱演をみせる。西尾は昨年秋、みきかせプロジェクト『ファミリアー』で、けなげな犬のモナカを演じたことがいまだ心に温かく蘇る。それがユダヤ人数百万人の虐殺を指揮した独裁者とは。顔かたちはもちろん、声もまったく似ていないのに、そうした懸念や観劇前のぼんやりした気分をぶっとばす勢いだ。ほかにもゲーリングやルドルフ・ヘス、レームやゲッペルスも登場するわけで、いわゆる小劇場演劇において、外国戯曲ではない外国もの(おかしな言い方だが)をみる妙な感覚が終始つきまとった。
出演者はもちろんのこと、みるほうも異様なまでに張りつめた空間に身を置かねばならない。登場人物はみなぶち切れそうな音量と勢いで台詞を発し、演技も激しい。全編大変な迫力なわけで、しかしそれが却ってめりはりをなくし、客席の集中度を緩ませてしまった面もあるのではないか。迫力に圧倒されながら、「ずっとこの調子でつづくのか」と困惑したのも正直なところだったのだ。
今回筆者の不調は、先日みたばかりの『親愛なる我が総統』における静的な印象が非常に好ましく心にのこっていたことも理由のひとつと思われる。アウシュヴィッツ収容所の初代所長ルドルフ・ヘス、予審に携わる判事、彼の精神状態を調査する精神科医と、立場のことなる人々による戦後のナチスについての短い会話劇だ。激しく言い合う場面もあるが、ごく少ない。それがかえって緊張を高め、舞台に集中できたのである。
作り手としては『熱狂』にはあの強度と熱が、ぜったい必要なものであったのかもしれない。それを受けとめるにはこちらがひよわだったのか、残念ながらいろいろな面で相性がよいとはいえない観劇であった。
この日はアフタートークが行われ、Ort-d.d主宰の演出家・倉迫康史が出演した。劇本編とは打って変わって和やかな雰囲気のなか、「ヒトラーは必ず否定される人物なので、それを取り上げたのは大変な挑戦だ。さらに若いころのヒトラーを取り上げた点がおもしろい」「軍服のコスプレのように見えるところがある。少年たちが行ってしまったことの批評性が感じられる」という氏のコメントが的を得ておみごと。すとんとおなかに落ちた。このように舞台の熱気をいい意味で客観的にとらえられればよかったのだが、残念だ。
気を取り直して明日の『あの日の記憶の記録』に備えよう。
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