因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

D.K HOLLYWOOD 20周年企画第2弾『贋作 桜の園』

2015-09-29 | 舞台

*越川詩織作 ロドリゴ・サンゴショウ演出 公式サイトはこちら (1,2) 池袋/シアター・グリーンBIG TREE THEATER 10月4日まで 大阪/道頓堀ZAZA 10月8日~12日
 これまでの上演台本はすべて劇団代表の越川大介が執筆していたが、このほど若手の越川詩織がこの公演で劇作家デヴューを果たす。公演チラシには出演俳優たちがいかにもチェーホフ劇らしい扮装の写真が掲載されている。しかし役名はみな日本人だ。はてそうすると『桜の園』の翻案か。しかしわざわざ「贋作●●」と銘打つならば、あともう一歩ひねりがありそうだ。改めて「ごめんね、チェーホフ……」のキャッチが気になる。

 公演がはじまったばかりなのではあるが、結論から言うと本作はチェーホフの翻案ではなく、現代日本を舞台にしたコメディである。樹齢何年かと思うほどみごとな桜の大木がある庭と、広い屋敷をもつ家族が、さまざまな理由でそれらを手放さねばならなくなる。経営している会社もあやうい。結婚適齢期の娘が案じた一計というのが何とも奇想天外で。

 前述のように、本作は越川詩織のデヴュー作である。しかしながら手練れといってもいいくらい、巧みなホンである。ギャグや小ネタが切れ目なく、実に周到に織り込まれ、登場人物すべてに見せ場を作り、最後は卒業歌でホロリとさせるところなど、心憎いばかりである。俳優陣も適材適所の配役がなされており、若い劇作家を守り立てようと、誠実に取り組んでいることが伝わる。初日の固さもなく、稽古がしっかりと入った手堅い舞台だ。

 人はなぜ演劇をつくるのだろう・・・という正解のない疑問がわく。言いかえれば「その人がつくろうとしているものが、なぜ演劇でなければならないのか」ということである。

 舞台中継番組というものがある;NHKのEテレの「古典芸能への招待」や、BSのプレミアムシアターなどであるが、それらと似て非なるものに、前川清と梅沢富美男による「ふるさと皆様劇場」や、「お笑いオンステージ」などの公開収録のバラエティ番組がある。前者にはアーカイヴとしての目的が明確であるのに比べると、舞台そのものだけでなく、それをみている客席も含めてまるごと番組であり、テレビ媒体において不特定多数の視聴者へ発信することを前提としたものである。
 これまで観劇したD.K HOLLYWOODの舞台から自分が感じとったのは、自分がかつて非常にわくわくしながら楽しんだこれらの公開収録番組に似た雰囲気である。テレビで見てこれだけおもしろいのだから、実際にスタジオに行ったらどれほど楽しいだろうかと想像するが、自分の生活空間で自由にくつろいで見ること、むしろ作り手も受け手も生の「いま、ここで」ではない距離感が心地よかったことを思い出す。

 D.K HOLLYWOODの舞台と客席の自分とのあいだには、何か決定的な距離があり、それは作り手が目指している演劇と、自分が求めている演劇との温度差、感覚の相違ではないかと思われるのである。

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