因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象第9回公演『青鬼』

2007-11-11 | 舞台
*鈴木厚人作・演出 公式サイトはこちら 新宿タイニイアリス 13日まで
「飽食」をテーマにした劇団印象の新作である。若い夫婦の住む部屋。ほどんど裸舞台だが、和風の可愛らしいデザインの明かりがいくつか下がっていて目をひく(舞台美術は坂口祐)。冒頭、妻が夫を責めている。「食べたでしょ?」「いや食べてない」。妻があとで大事に食べようと思っていたデザートかな?と思ったら、それは水槽にはいっていた魚らしい。とそこへイルカの着ぐるみ姿のプーチンがやってきて…

 イルカが登場して人間同様にしゃべったり怒ったりする展開はさすがに予想できず、びっくりした。人間は何かを食べなければ生きていけない。ある年配者から「この世で完全な無機物は水と塩だけだ。あとはすべて動物はもちろん野菜や米さえも同じことで、人間は生き物の命を奪って生きているのだ」という話を聞いたことがある。『青鬼』で展開するのは、新婚旅行先のアラスカで味をしめたイルカを食べ続けるのをやめた途端に夫はからだがイルカになりかけてしまい、それを救うためにイルカのプーチンを殺そうとして果たせない夫婦の閉じられた世界である。何かを食べるということは、その何かと自分がひとつになることだ。相手が愛しくて「食べてしまいたい」という強烈な愛情と独占欲、いささか倒錯した愛情表現だろうか。それとも前述の「何かの命を奪って生きている」人間の存在じたいの悲しさだろうか。

 実を言うと、タイトルの『青鬼』は野田秀樹の『赤鬼』を意識したものでは?という観劇前の思い込みが強すぎたのか、物語になかなか入り込めず、集中を欠く観劇となった。青鬼かと思ったら、青い衣装のイルカだった。いつ青鬼が登場するのか、もしかしたら自分がぼんやりしていた間に何か象徴的な場面があったり、青鬼(赤鬼でもある)を示唆する台詞があったのだろうか。そのため前段のストーリー説明部分にも正直自信がない。終演後いったん新宿駅に向かって歩き出したのだが、どうにも気持ちがすっきりしないので後戻りしてアリス近くのドトールで『野田秀樹 赤鬼の挑戦』(野田秀樹+鴻英良共著 青土社)を読む。自分は1999年秋にシアタートラムでタイ・バージョンを見たのだが、ほとんど記憶にない…改めて戯曲を読み直して、その世界の深さが恐ろしくなる。

 開幕して2日めということもあってか、まだ舞台も客席も温まってない雰囲気であった。ありそうもない設定から少しずつ普遍的なテーマに向かって近づいていく足取りのおもしろさが、もっと表現できるのではないか。印象に出演の俳優さんたちは、ただ元気だけでぶっとばすのではなく、ひとつひとつの場面を大事に演じていること、よく稽古が入っていることが感じられても、達者なところが鼻につかないのがとても好ましく、作・演出の鈴木厚人の作品を信頼し、力を合わせていい舞台を作ろうという気持ちが客席に伝わってきて、自分はこのカンパニーの将来がわくわくと楽しみになるのである。自分にとって印象はまだ今回が2度めである。いい意味で期待を裏切り、別な面ではいい意味で期待以上の舞台がみたい…と要求することが多くなってしまった。次回作までに自分も鍛えておきます。
 

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