因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

こまつ座・ホリプロ公演『十一ぴきのネコ』

2012-01-12 | 舞台

*井上ひさし作 長塚圭史演出 宇野誠一郎・荻野清子音楽 公式サイトはこちら 紀伊國屋サザンシアター 31日まで (1,2,3,4,5,6)
 井上ひさし生誕77フェスティバル2012の第一弾公演となった本作は、馬場のぼるの同名絵本を原作に、テアトル・エコーが1971年熊倉一雄の演出で初演した。その後大幅に改訂された『決定版 十一ぴきのネコ』が上演されたが、今回の長塚演出は初演のエコー版を用いている。音楽は宇野誠一郎の曲を萩野清子がアレンジし、新曲も加えて舞台上で生演奏する。

 舞台をみるのは何と今回がはじめてだが、自分が繰り返し読んだ戯曲は初演のエコー版であり、何度も聴いたり歌ったりした曲は青島広志作曲のもので、懐かしさと新鮮さが入り混じる楽しい観劇となった。

 主人公のにゃん太郎を演じる北村有起哉はじめ、山内圭哉、、中村まこと、蟹江一平やベテランの勝部演之まで配役は適材適所、開幕して間もないせいか、開演前や劇中で客席におりるところなど硬いところも見受けられたが、全員一丸となっての力強い熱演だ。ミュージカル俳優がひとりもいない出演陣が必死に歌い、踊るすがたは実に好ましい。

 『十一ぴきのネコ』でどうしても気になるのが終幕である。野良猫たちが力を合わせて苦難を乗り越え王国を築いたが、主人公が最後に受ける仕打ちはあまりに痛ましく、重苦しいものである。
  子どもたちにこれを見せるのか。「なぜこうなるの?」と問われたとき、何と答えればよいのか。本作には「子どもとその付き添いのためのミュージカル」という副題が添えられており、子どものように物語を楽しんで終幕になったとき、子どもの付き添いである大人の役割が重く感じられてくるのである。

 明確な答はいまだに出せないが、子どもたちには見おわったときの自分の気持ちに正直であってほしい。物語がめでたしめでたしではなく、なぜこんな終わり方をするのか、いっしょにみたお父さんやお母さんがどうしてむずかしい顔をしているのか。楽しかった、おもしろかったとは違うこの気持ちはどう言えばいいのか。すぐにはわからないだろうし、忘れてしまうかもしれない。
 しかしいつの日か、この舞台のことを思いだしたとき、本作が持つ悲しみや苦さのわけに気づくだろう。そして願わくは今度は自分より小さな人たちの付き添いとなって、もう一度劇場を訪れてほしいのだ。

 パンフレット記載の出演俳優のインタヴューにも「スター性はともかく、一癖も二癖もある期待のキャスト陣」、「興業的に戦えないメンツなのに、期待の声を聞くのも”ご褒美“やと思います」とあって、集客に苦労しているらしいことがうかがわれる。
 自分は演劇興行のしくみについてはまったくわからない。しかしホリプロと共催?の場合、こまつ座の通常の公演よりチケット料金を高くしないと興業が成立しないのだろうか。
 子ども料金の設定があり、ロビーではリピーター割引の案内も控えめに行われている。アフタートークで出演者が「チケットが高いけれど、どうかまたみにきてください」という気持ちに応えたいのはやまやまだが、やはりサザンシアターで7,800円は高すぎます。

 せめて『十一ぴきのネコ』をみた方と語りあえたらと願う。そしてこれからご覧になる方が豊かな時間を過ごせるように。

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