因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

プリンアラモード鯖『一族のバラード』

2007-07-09 | 舞台
*細川貴史作・演出 公式サイトはこちら 公演は8日で終了 新宿タイニイアリス
 「演劇」は舞台で起きていることだけではなく、それを見ている客席も含めて成り立つものだと思う。舞台の空気が客席に伝わって、客席の空気が変わり、それがまた舞台に伝わる。時間と空間を互いに共有することこそ演劇の特性であり、醍醐味であると。

 今回初見のプリンアラモード鯖の舞台は、休憩なしの2時間20分という長丁場だった。いじめられっ子の耕平を守ろうとして、顔に大きな傷を追わされた姉の一葉という話がひとつ。16年後、ヒーローショーを行うイベント会社の社長とその部下たちという話がひとつ。さらに社長の父親との関係、妻との関係、部下とその家族、耕平とマネージャーなどなど、登場人物の関係が時間と空間を行ったり来たりして、つながりを追うのが難しい。少年期のいじめがどれほど深い傷になるか、暴力の連鎖が断ち切れないこと、赦しがいかに難しいかなど、内容は盛りだくさんである。

 2時間を越える上演はやはり長い。たとえこれが途中10分の休憩をはさんだとしても、また本多劇場や紀伊國屋ホールなどの広い劇場だったとしても、長いという感覚はあまり変らないと思う。作り手の主張が多すぎて全部を受けきれないのである。しかしながらすごいと思ったのは上演時間中、出演俳優の緊張やテンションが落ちなかった、少なくとも舞台側の熱気は息切れすることなく、最後までぶっとばす勢いがあったということだ。

 ならば見るほうとしては、その熱気をともに味わいたいのである。客に「ウケる」というのは、笑いを取ることだけではない。舞台から発せられるものをしっかり受けとめている客席は、笑いはなくても雰囲気が変わる。静まり返っていても舞台に集中する多くの視線は、劇場ぜんたいの空気を引き締める。今回自分は残念ながら、舞台と客席の双方向の交わりは実感できなかった。舞台から客席はどのように見えたのだろう。頑張り通した俳優さんたちは、客席からどんなことを感じ取ったのだろうか。

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