因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

小西耕一ひとり芝居第二回公演『既成事実』

2013-05-17 | 舞台

*小西耕一作・構成・出演 公式サイトはこちら 東中野/RAFT 19日まで
 昨夏上演の鵺的『荒野7/1』(高木登作・演出)に出演した小西耕一を思い返す。両親の起こした事件によってちりぢりになった7人きょうだいの濃厚な対話劇である(wonderland掲載の劇評)。
 深い苦悩のなかにある長兄から別れ際に「また会えるか」と聞かれた弟(小西)は、飄々と「タイミング的によければ」と答える。怪訝な表情で「タイミング的って?」と聞き返す長兄に、小西は顔色ひとつ変えず、「バイトの都合とか」と答えるのである。台詞は記憶によるものだが、怒りや悲しみを懸命に抑えたり、逆にあふれさせたりする兄や姉、妹たちのなかで、小西が演じる四男はひとり離れたところにいる。ほかのきょうだいたちのなかで、おそらく台詞はもっとも少なく、表情も変化せず無反応で、強烈に誰かと絡む場面もなかったと記憶する。
 照れやとまどいというより、要は無関心なのだろう。といって徹底して冷淡なわけではなく、彼にはもっと別の屈託がある、できればそれを知りたいといまでも思うのである。

 たくさんの感情を背負った役を演じることはもちろんたいへんだろうが、そのなかで逆にあまり負荷がなさそうにみえる(あくまで客席からの印象だ)役柄を過不足なく演じることにも、べつのむずかしさがあるのではないか。俳優としてののやりがい、演じる手ごたえがつかみにくい、劇の主軸から距離のあるポジションでみる小西には、もっとちがう顔がある。

 その小西がひとり芝居公演を行う。第一回公演『中野坂上の変』(筆者は未見)では4人の劇作家の作品を連続上演したが、今回はすべて自分である。
 JR東中野駅から徒歩十数分のところにあるRAFTは明るいエントランスから一歩劇場に入るとしんとした暗闇が感じられる空間だ。舞台にはベッドくらいのサイズの木製の箱がひとつきり。客席数は20くらいであろうか。

 いわゆる小劇場系の舞台を続けてみていると、劇団の枠を越えてさまざまな俳優が実に精力的に活動していることがわかる。ただいつのまにか「この俳優さんはこんな感じ、この俳優さんはこんな役」という固定観念ができていることに気づく。劇の主軸にがっちりと絡んで物語を運んでゆく位置に配される俳優、それに対して副筋、脇筋の役柄を受け持つ俳優がいるのは、劇の構造上いたしかたない面もある。
 出演作を数本みた印象から、小西耕一は後者と認識している俳優であった。
 今日のひとり芝居をみて、自分の認識が非常に単純で浅はかであったことを強く反省している。
 堂々たるひとり芝居ではないか。

 当日リーフレットには小西の挨拶文が掲載されており、それには予想もしなかった小西自身の身の上が、両親の離婚や再婚、自分の恋愛歴に至るまで、細かい字でびっしりと記されている。ここまで自己について芝居の前に観客に語ってしまってだいじょうぶなのだろうか。

 私小説や私戯曲など、自分の人生を題材にすることには長短がある。現実にあったことをまさにその人が演じるのであるから、現実味という点ではたいへんリアルで説得力をもつ。しかしあまりに内容が濃厚であったり、さらけ出し度があからさま過ぎると、みるほうは食傷するばかりだ。意地悪なみかたになるけれども、「告白されても困る」と思うのである。彼または彼女は自分のことを舞台にのせてどうしたいのか、どうしてほしいのかと引いてしまうのだ。安易な同情や共感はかえって失礼であろうし、いやほんとうにもう困るのである。
 ましてや「ひとり芝居」である。しかもみずからが台本を書いて構成し、主演する。俳優のエゴむきだし、自己主張の極みになる可能性もある。

 観劇前の自分の懸念はうそのように消えていた。小西自身の生い立ちや実生活を過度に引きずった自分さがし風の告白劇ではなく、独立したひとつの作品であった。それは作り手の技巧や計算というより、逃げ隠れできない劇場において、自分のすがたをすべて他者にみせる演劇という行為に対して、小西耕一という俳優が持つわきまえであり、プライドのためではないだろうか。

 いやこの言い方では不十分だ。なぜ今日のひとり芝居を楽しめたのか。小西耕一に対して、俳優という存在に対して、これまで抱いていた概念や感覚が揺らいだのはなぜかを、もっともっと考えたい。ここまでわが身をさらして勝負している人がいるのだ。こちらも本気を出さねば申しわけないではないか。

 公演真っ最中のため、舞台の詳細は伏せてひとまずここで置きます。「書きなさい」の啓示が与えられそうな予感があってぞくぞくと楽しく、しかしそれに応えられるか早くも不安におののきながら。

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