因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

MITAKA "Next" Selection 21st Pityman『みどりの山』

2020-10-07 | 舞台
*山下由脚本・演出 MITAKA "Next" Selection 21st 劇団サイトはこちら  三鷹市芸術文化センター星のホール 11日まで
 外出自粛中に視聴したPityman5夜連続配信企画『ぜんぶのあさとよるを~ラブ・イズ・オンライン』『ハミング・イン・ウォーター』いずれも瑞々しく新鮮な作品だった。あれから5か月、遂にPitymanの舞台のリアル観劇が叶った。

 場所は山も海も見えるところにある代理出産施設のロビー、時は近未来であろう、男性も出産ができるようになっている。スタッフは施設長とケアテイカー(お世話係の意か)のふたりだけで、代理母と代理父各3人、計6人の妊婦と妊夫の出産を切り盛りしている。ほかには施設の取材に訪れているジャーナリストと、以前この施設で出産した女性が登場する。

 ロビー右部分に受付、他にはケアテイカーの居室、左側に施設長室、代理父母の部屋があるらしい。物語は一貫してこのロビーで展開する。施設が閉じられてしまった現在と、そこに至る過程、さらに前に起こった事件など時間の行き来があるが、混乱はしない。

 現在よりも代理出産の選択が増えているらしき状況や(それでも厳密なルールはある)、しかも男女ともに出産できるほど医学が進歩していることなどがファンタジーではなく、ごく自然に設定されている。施設はビジネスとして、代理父母は報酬を得る仕事として出産すると認識しており、レクリエーションの歌を歌ったり、誕生日を迎えた妊夫のひとりを祝ったりなど、まるでサークルの合宿の風情である。

 映像で視聴した2作品で得た手応えが、生の舞台であればどれほど確かなものになるか。その期待を強く持って観劇に臨んだが、舞台と自分の感覚の波長が最後まで噛み合わなかった。人物一人ひとりの背景や事情すべてが詳らかにされる必要はなく、見る側としても説明がほしいわけではないのだが、男性も出産ができること、従って代理父になれることが設定として置かれたに留まり、代理父になることを選んだ彼らの存在がいまひとつしっくりしないまま終わった印象がある。

 上演期間中ゆえ詳細は書けないが、中盤において物語が大きく展開する大事件が起こる。代理父が自然に設定されている序盤からするとあまりに唐突であり、その後の反映にもいささか無理が生じたように思われる。ここを素直に受け止め、味わうことができれば本作の印象はかなり変わったことだろう。

 視聴した2作品についてはその人物の背景や心象を敢えて掘り下げないところを作品の旨みとして、また作者の含羞というのか、奥ゆかしさとして味わった。だが最新作においては、心の奥底を見せないケアテイカーや、姿を消した代理夫、櫛を亡くした代理母など、それぞれひとりで1本の芝居が成立しそうな内面が感じられる。その一方でジャーナリストについては、なぜ彼にこのような振舞いをさせるのか、彼の存在を物語にどう反映したいのか、作者の意図を測りかねた。

 自分が期待度を高く設定してしまったこともあり、不完全燃焼感の残る観劇になったが、また気持ちを新たに、次なる舞台との出会いを待とう。Pityman作品の空気感を、劇場の客席でぜひ味わいたい。
 
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