夜の学校は暗くて静かで広くてこわい。
昼間は行かないと怒られるのに、夜に入ったら叱られそうな場所になぜか変貌するのだ。
しかしにしすがも創造舎にはいくつもの部屋に明かりがともり、さまざまな公演の稽古や準備が行われている。忘れものを取りにこわごわ学校に来た子どもが予想外のにぎわいに驚いた心境だ。朝から冷たい雨の降りつづいた夜、18時より上記公演の稽古場を訪問した(文中敬称略)。
構成・演出の矢野靖人によれば、昨日は「無理やり最後まで通した」のだそう。俳優陣からは「登山ルートはわからないけど、山頂まで登った感じ」という、大変わかりやすい印象が聞かれた。今夜はキャストのひとりが別の公演のため、ウォーミングアップから、いくつかのシーンをピックアップして検討、確認する「返し」が行われた。
単純にウォーミングアップといっても内容は盛りだくさんだ。各自ストレッチや整体に近い本格的なマッサージをしたあとで、顔をほぐすことから稽古開始。床に立つ姿勢の確認。発声練習はだんだん混声合唱のように聞こえてくる。実は自分もこっそり合わせて声を出していたのだが、皆さんの半分も息が続かない。目隠し鬼ゲームでリラックスし、音楽にあわせてゆっくりと歩く。
ふたり一組で行う不思議な身体トレーニングもあり、うまくからだが動く(という表現はふじゅうぶんなのだろうが)と、まるで舞のように美しく見えることに驚いた。なぜこのトレーニングを行うかは、次の返し稽古においてだんだんわかってくる。
今回の『構成・イプセン-Composition/Ibsen』の中心をなす作品は、『幽霊』である。戯曲に指定された登場人物は5人、しかしshelf公演の出演俳優は6人である。ここに本作の大きな特性がある。
演出家は台本を持たずにリードする。場面によっては俳優よりもきっちりと台詞を覚えていて、返し稽古のなかで、演出家みずからが「こういう感じで」と実演するシーンがあって(女性の役も!)、こ、これが台詞といい、からだの動きといい、実にすばらしいのである。いま俳優がしていることと演出家の求めるものの違いが、自分のように演劇実技の素人にも相当程度わかる。しかし演出家の演技のまねではだめなわけで、繰り返し少しずつ俳優の身体、感覚にたたき込み、浸透させるしかないのだろう。
稽古は終始なごやかで生き生きした雰囲気で行われたが、からだが思うように動かないことや、表情や台詞がぴたりとはまらないことは、俳優にとって非常にもどかしく辛いことと察する。その場しのぎの小手先のテクニックではなく、人間としての経験値まで必要とされるのだから。
あいだに10分の休憩をはさんで21時50分ころ終了。あっという間であった。
試行錯誤の過程が、本番の舞台にじゅうぶんに活かされますように。
初日まであと16日だ。
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