*長田育恵作 扇田拓也演出 公式サイトはこちら 下北沢「劇」小劇場 19日で終了
舞台を客席が両方からはさむ対面式の作りだ。観客にすべてをさらす舞台空間で、薄幸の詩人金子みすゞの最後の数年間を描く。
みすゞ役の石村みかと夫役の大場泰正が諍う場面が痛々しく、かなしい。これまでみすゞの生涯を描いたテレビドラマや映画をいくつかみているが、ほとんどの作り手が商売がへたで性格もひねくれて、放蕩のあげく妻に業病をうつす夫を単にひどい男とはとらえず、複雑で奥行きのある人物にしていたことを思い出す。
ともすればみすゞへの共感や同情が色濃く出てしまいがちになる舞台のなかで、大場泰正が必死にもがき苦しむ姿に惹きつけられる。この人は何がほしかったのか、妻にどうしてもらいたかったのか。みすゞも痛ましいが、この人も気の毒だ。ほんの少しの行き違いがしだいに深くなり、どうしようもなく折り合いが悪くなってしまう様子に胸が痛む(自分にはNHKの『おひさま』のような物語はどうにも居心地がわるい。みすゞと夫の「合わない」姿のほうがほんものにみえる)。
それまで忍従していたみすゞが、別れてからひとり娘をどちらが育てるかについて激昂し、ぜったいに自分が引き取ると譲らない。その勢いに夫は「こんなあんたを初めてみた。」と茫然とする。相手の知らなかった一面をみて、いよいよ困惑し溝を深める。妻とて、こんな境遇にならなければ、ここまで怒り狂うわが身をみせることはなかったはず。
観客の出入り口を使って人物や年月の流れを効果的にみせる。天井からつりさげられた魚のモービルが美しい。もう少しゆったりした空間でみることができたら。たとえばベニサン・ピットの舞台が思い浮かぶ。
人物にひたむきに寄り添いながら、周辺の人々のことも行き届いた視線で生き生きと描く劇作家の筆致と、戯曲と俳優の資質を丁寧に掘り起こす演出が生み出した珠玉の舞台だった。
来年冬にシアタートラムで上演される『乱歩の恋文』がますます楽しみになった。
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