因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ第34回公演『プライベート・アイズ』

2009-07-22 | 舞台

*関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢OFF・OFF劇場 20日で終了
 以前にも書いたことだが、この4年間で自分の演劇趣味は激変した。それまでは自他ともに認める保守系の新劇派だったのが、2005年夏に発行された「ユリイカ」の特集*この小劇場を観よ!を手に取ったのがまさに運の尽き。ユリイカを教科書代わりにみたことのない劇団の公演にひとつひとつ足を運んだ。その皮切りが劇団フライングステージで、以来自分の演劇生活に欠かせないカンパニーになったのである。名前も知らなかった劇団や俳優さんが次第に、あるいはあっという間に親しく大切な存在に変化する体験は、実に不思議で幸せなことである。

 最新作は2006年夏上演の『ムーンリバー』の続編で、中学生だった高橋大地少年がの高校生活を描いたものだ。

 

 建て直しが決まった高校の講堂に、かつての演劇部員たちが集まる。顧問の先生と思い出を語るうち、場面は25年前の高校時代に戻る。小さな木製の椅子が10脚くらいあり、それを動かすだけで舞台は大地の自宅リビング、荒川の河川敷、新宿2丁目のジャズバーと自在に変化していく。2時間のあいだにここまでいろいろな要素をよく盛り込んだものだ。自分の観劇日は客席の反応も上々で、たとえば高校生の大地が「中島みゆきのアルバムをYOU&Iで借りる」という台詞に、ため息まじりで「懐かしい!」という声があがり、上演中にしゃべるのは基本的にNGなのだが、このときばかりは「よくぞ言ってくださいました、懐かしいです私も」と心の中で思わず感謝してしまう。演劇部に特別指導にやってきたアングラ劇団の座長(加藤裕)と女優(西田夏奈子)のやりたい放題は抱腹絶倒もの。

 俳優はほとんどが複数の人物を演じ継ぐが、そのなかでは遠藤祐生が演じたジャズパーの客が印象に残った。興味津々で新宿2丁目に通う大地少年に、おそらくそれまで数々の辛い経験があっただろうことを微かに感じさせながら、少年を優しく突き放す。これまでどちらかというと「押される」ポジションが多かった遠藤が、哀感漂うゲイを複雑な味わいで演じていた。短い触れ合いしかなかったが、自分の人生に確実に影を落として通り過ぎて行った大人。演技のテクニックではなく、もっと深いものを感じさせる。もう一人は本作の進行役ともいえる桜井電器店の店員岡ちゃん役の岸本啓孝である。彼は物語が始まったらすぐに「岡ちゃんが死んじゃった」という会話で登場する人物である。成仏せずに?大地少年の心の鏡のような役割で時々顔を出し、場面転換では無言で椅子を移動させ、しばし舞台に佇んで姿を消す。この世に命があるときには心を許せる相手を得られなかった。しかし誰かの心の中にしっかり住み込んで静かに見守ってくれる存在だ。

『プライベート・アイズ』は、みる人の立場や年代によって、いろいろなことを考えさせられるだろう。「懐かしいな」だけで終わらない苦さや悲しみも併せ持つ。今日という日は今日しかなく、どんどん過去になっていき、気がつけば10年、20年が過ぎていく。そのときの自分がそのときのフライングステージの舞台にどんなふうに会えるのか、とても楽しみである。

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