*瀬戸山美咲作・演出 公式サイトはこちら 新宿御苑サンモールスタジオ 9日まで
2005年夏の自分の演劇的事件は、劇団フライングステージとミナモザの舞台に出会ったことであった。特にミナモザについては、初めてサンモールスタジオに足を踏み入れたこと、その後若い演劇人の作品との出会いが次々に与えられるきっかけとなった。今夜も客席最後列に座って居心地よく開演前の時間を過ごしている自分に驚くのである。
さて今回は「振り込め詐欺」の仕事をする若者たちの”働く”青春を観察する作品だという。登場人物10名のうち、8名が男性である。スタッフが開演を告げてから客電が落ちないうちに、舞台には一人の女性が登場する。舞台が明るくなってもしばらくはこの人が木村キリコであることがわからなかった。前回から驚くほど美しくなった。「ふてくされて無表情な鈴木京香」とでもいおうか。
瀬戸山美咲の作品の特徴は、こちらの予想を少しずつ、見事に裏切っていく点である。冒頭木村キリコの長い独白から一転、ほとんど男所帯の詐欺グループの事務所では、圧倒的に男性陣の出番、台詞量が多い。その内容も仕事が仕事だけに殺伐としてえげつなく、彼らの言葉使いや立ち振る舞いをみていると、これが女性の劇作家の筆から生まれたものとは俄に思えないくらいである。今回は男の話なのだろうか?
詐欺の仕事にどっぷりの彼らの中に、多少の異物がやってくる。木村キリコ演じるケイとは正反対にみえるエンジェル(名嘉友美)、単純労働を転々とした挙げ句に詐欺グループに足を踏み入れた実直そうな徳沢(松本雄大)が、物語を大きく変えそうでなかなかそうならない。
しゃべりっぱなしの動きっぱなしの男性たちに比べ、極端に台詞の少ないケイがエンジェルと僅かに心を通わせたかに思わせる場面が、冒頭のケイの独白を思い起こさせる手法は鮮やかとは言えないが、だからこそあざとさではなく、僅かな救いを感じさせた。
男たちの話を前面に出しながら、その陰でひっそりと働くケイの姿をいつのまにか映し出す。男たちの前でほとんど口を利かないケイがどんな気持ちで毎日働いているか。これからどうしていくのか、知りたいと思った。
…と心も頭も混乱して言葉が出てこない。しかしこの気持ちを何とかしたいと思う。全く何の手がかりも目算もないのに。瀬戸山美咲の作品は、自分を地図もなく目的地のわからない旅に駆り立ててしまうのである。
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