因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数第19項『五人の執事』

2009-08-02 | 舞台
*野木萠葱作・演出 公式サイトはこちら 三鷹市芸術文化センター 星のホール 9日まで
 星のホールは確か3度めだが、難しい空間だと思う。広さも高さも充分なのか半端なのかわからない。普通のプロセニアム型はもちろん、スローライダーのときはちょっとびっくりする作りになっていたし、下北沢OFF OFFシアターなど小さな劇場で見慣れたパラドックス定数がどんな舞台を作るのか。雨の昼下がり、静かなロビーで開場を待つ。
 webサイトや当日リーフレットも読んだが、何を題材にしたのか、執筆のきっかけは何なのかは記されていない。実際に起こった事件を取り扱ったのではなく、完全な創作のようである。虚実ないまぜにしながら、男たちが緊張感漲る丁々発止を繰り広げるいつもの舞台を期待すると肩すかしを食う。

 横長に作られた客席はわずかに3列、劇場の大部分が舞台になっている。縦横に走る古びた木製の廊下らしきもの、手前には食卓テーブルに椅子が数脚、上手奥にはあるじのものらしい大机、舞台奥には階段とその上にも少し演技スペースがある。古びたお屋敷にはおそらく多くの部屋があり、当然ドアや壁があるだろう。それらをすべて払ってやや前面に傾斜を感じるが、平面図にしたような舞台装置である。

 題名通り、執事が5人登場する。あるじが亡くなり、息を引き取る直前に自分の日記を持ってこさせようとしたという。あるじは何者なのか、ほんとうに亡くなったのか…次々に謎が示されるが一向に解かれる様子はなく、5人は慌ただしく館の中を歩き回る。5人のうちの数人は、あるじの妄想が生んだ存在であることはどうやらわかったが、作者がこの舞台から何を伝えようとしたのか、最後までつかめなかった。

 カーテンコールで5人は横並びに整列せず、前後ろ距離を持った位置に立って一礼する。その「図」の美しさに惚れ惚れする。舞台奥、両袖にどんな暗闇が広がっているのだろうか。作品が生み出す濃密な空気、緊迫感は、劇場の大きさに左右されないことを実感した。これほどの広さと奥行きのある劇場でも台詞は拡散せず、客席も含めて謎めいた空間を作り出すことに成功している。

 だがしかし、自分も含めて客席には緊張感というより困惑が濃厚だったと思う。終演後の野木萠葱の挨拶への拍手も湿り気味であったし、いつもなら迷わず購入する上演台本も今回は買わずに退出した。たぶん読んでも疑問や困惑が広がるばかりであろう。野木萌葱の心のうちがますますわからなくなった。勝負は秋の『東京裁判』に持ち越しである。
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2 コメント

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いつも読ませていただいています。因幡屋さんの、... (tomo)
2009-08-04 23:02:47
いつも読ませていただいています。因幡屋さんの、芝居を見て持たれる感想が何となく自分に似ているように感じています。野木さんにはやはり骨太な、オトコたちの静かな闘いを期待してしまうので、今回の「五人の執事」はちょっとどう捉えていいのか…キビシかったです。次の「東京裁判」はパラドックス定数を初めて見た作品であり、いっぺんで射抜かれてしまった作品でもあります。楽しみですね。
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tomoさま、コメントありがとうございます。当ぶろ... (因幡屋)
2009-08-05 22:18:55
tomoさま、コメントありがとうございます。当ぶろぐをお読みくださっている御由、重ねて御礼申し上げます。
自分はまだパラ定初級者ですが、昨秋以来、あっと言う間に嵌まってしまいました。でもおっしゃる通り、今回の舞台は辛かったですね(笑)。ただ野木さんの「舞台空間構成力」ならびに「劇場把握力」(どちらも自分の造語)はすごいものだと思いました。
tomoさんは『東京裁判』を既にご覧になっているのですね。自分は今度が初見になります。楽しみですね。

今後とも因幡屋ぶろぐをよろしくお願いいたします。またどうぞお越し下さいませ!
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