因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

 中野成樹+<del>フランケンズ、</del>の短々とした仕事 その1『冬眠』

2007-01-26 | 舞台
*チェーホフ作『熊』より 中野成樹誤意訳・演出 STスポット 28日まで 公式サイトはこちら
 ほんとうは「フランケンズ」の部分に取り消し線ではなくて×印が入るのだがごめんなさい、その通りに表記できませんでした。「短々」は「たんたん」と読み、短い稽古期間で短い作品を創ろうという企画。当日パンフによれば、7日間、時間にして26時間の稽古だったのだそう。中野成樹の舞台、誤意訳については、先日の急な坂スタジオのマンスリー・アート・カフェで俄然興味を掻き立てられ、直後にその舞台がみられるという実に幸運な体験をした。

 愛する夫を亡くして悲しみに暮れる未亡人(斎藤範子/Theatre劇団子)に、従僕(やまがたひろとも/劇団山縣家)が「たまには外に出ましょう」と誘う。未亡人は動こうとしない。そこへ借金取り(中村たかし/宇宙レコード*これも「レ」に丸印が入っているのです。できない・・・)が乗り込んできて、夫が生前彼に借金をしたらしく、その金を返せと迫る。未亡人は執事が戻るあさってにならないと無理だと言う。すぐに金が欲しい借金取りは部屋に居座る。従僕は彼を追い出そうとする・・・という話である。

 俳優は台本のようなものを手にしているが、ほとんどそれに目を落とさない人もあれば、場面によっては台本を結構必死で目で追うところもあって、これは「まじ」なのか演出なのか。未亡人はチェルフィッチュを思わせるだらだら感がもっと淡々としたような話し方だ。表情もほとんどなく、夫を亡くした悲しみよりも何を考えているのかわからない気味悪さが感じられる。といいつつ「わたし、くまってしまったわ・・・とさりげなくタイトルを言ってしまった」などと言うので、こちらはガクッとしてしまう。もしかしてこれは素人さんではないかと思わせるくらいたどたどしい従僕、これは熱演なのか地なのかわからない借金取り。

 当日パンフのキャストとスタッフの記載に「誤意訳・演出 中野成樹」。これはよくわかる。おもしろいのは「誤意訳・出演」とあって俳優名と配役が記されているところだ。戯曲の台詞を話し、俳優もまた「誤意訳」する存在であるということだろうか。

 小さな舞台三方の黒幕を引くと、壁には田園風景や馬などが描かれた素敵な切り絵が!切り絵作家タンタンの作品で、これも「短々とした仕事」にひっかけたものだそう。わずか40分だがまさにここでしかみることのできないチェーホフ。これが新しい試みです的気負いや照れが感じられないところが、堂々としていいと思う。収穫は「もっとチェーホフを読もう」という気持ちを掻き立てられたことである。登場人物の心情や作家の意図を知りたいという学習意欲ではなく、自分はチェーホフをどう感じるか、どこをおもしろいと思ったかをもう一度出発点に戻って楽しんでみよう。もっと自由に素直に。そんな気持ちにさせてくれたのである。

 劇場を出ると小雨が降っていた。横浜駅までまっしぐら。少しでも早くうちに帰ろう。本棚の奥からチェーホフ全集を探し出すために。

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