因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ『新・こころ』

2008-03-22 | 舞台
*夏目漱石『こころ』より 関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢駅前劇場 26日まで
 『こころ』を舞台化したものでは、一昨年春の龍昇企画『こころ』が記憶に新しい。静かで端正なたたずまいを感じさせる舞台であった。フライングステージの『新・こころ』は関根信一が原作を自らの視点で読み直し、構築した意欲作である。
 
 ☆公演は26日まで続きます。未見の方はこのあたりからご注意くださいませ☆

 舞台の構成は少々複雑だ。小説『こころ』の部分があって、しかも先生と私が登場するところと、先生とKがいる過去の部分がある。さらに大学のゼミで漱石を読む学生たちがいる。自分がゲイであることを明るく言う学生木下がいて、彼は『こころ』を独自の視点で読み解こうとしている。彼は大学講師に関心を持ち、少し片思い気味である。小説の先生と私の関係を投射している作りや、原作部分と現代の部分が入れ替わりながら進む前半は弾みがある。しかし、私とKの関係が描かれる中盤からは描き方が慎重で、これまでみたフライングステージの舞台と比べると笑いの要素も少なく、集中してみるのが少し辛い。

 木下の『こころ』の解釈(つまり関根信一の読み方)は、少し大胆すぎるかもしれない。しかし物語の人物の心の奥底まで入り込み、物語の中にまで割り込んで(そういう場面がある)ほんとうのことを知ろうとする気持ちには共感できる。虚構と思えない、小説の人たちは自分にとってはほんとうに生きていて、まさに生身の存在であり、放っておけない、何とかどうにかしてあげたくなる、そんな気持ちになることが、自分にもあるからである。ある作品に対する自分の思いを見つめ直し、解きほぐし、新しい作品を作り上げることは、贋作やパロディ、批評を越えた創造行為であることを実感した。作品に対する謙虚で深い愛情と同時に冷徹な観察眼、創作への強靭な精神力。さまざまなものが必要であろう。

 帰宅して本棚から『こころ』の新潮文庫を取り出す。今夜から自分の『新々・こころ』が始まったわけだ。
 

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