*森本薫作 江守徹演出 公式サイトはこちら 俳優座劇場 10日まで
ずいぶん長いあいだ『女の一生』から遠ざかっていた。杉村春子で一度、平淑恵で二度。あいだに朗読劇が一回。主役の布引けいに荘田由紀が抜擢され、ほかの配役も一新し、江守徹の新しい演出になっての再演である。
『女の一生』に限らず、いわゆる「新劇」をみるのはほんとうに久しぶりだ。休憩をはさんで2時間45分、これほど心身覚醒して舞台に集中できたのも久しぶり。ここ数年、自分の演劇生活は慌ただしくなる一方で、歩きながら、ときには走りながらご飯を食べているような日々である。今夜はきちんと着物を着て畳の部屋に正座し、お膳で食事をいただいたごとく、背筋が伸び、心もからだも充分に養われた。このところすっかり小劇場通いがおもしろくなって新劇から足が遠のいていたのだが、ずっと以前にお世話になった先生に久しぶりにお目にかかり、緊張しながらいっしょに食事をしたような気持ちというのか。実に清々しく、嬉しい思い。
何度もみて戯曲も読んでいるのに、自分にとって登場人物の造形も台詞のひとことひとことが新鮮で生き生きと感じられる。そのことに驚いた。いまさらながら、『女の一生』の魅力は何なのだろう。1996年発行のシアターアーツ[特集 『女の一生』]を恐る恐る開いてみる。平淑恵による上演に合わせて発行された号で、ずいぶん読んだつもりなのに、いや、とても今の自分の手には負えない。
心に残ったところを少し記してみると、けいがはじめて堤家に迷い込んできた場面で、火鉢に手をかざし、奥の部屋から聞こえてくる歌声に涙ぐむところ。荘田由紀のけいは、若い場から中年になったところでさすがに難しそうにみえたが、老年に達したところで不思議なほど無理なくしっくりと演じていて驚いた。和服で立ったり座ったり、お辞儀をしたりの所作がとても美しく、別居していた夫が節分の夜に戻ってきた場面など、まったく嫌みなく「お帰りなさいませ」と心から夫を迎える様子に、押しが強くてきつい性格とみえるこの女性が、ほんとうは優しく温かな心の持ち主であり、親から言い渡された結婚であったにせよ、このご夫婦はもっと仲良く幸せに暮らすことができたのではないかと思わせる。こんなにけいに寄り添って見られたのはおそらくこれが初めてだろう。
『女の一生』はいろいろな人に、いろいろな役を演じてほしい。そのたびごとに新鮮さと懐かしさが生き生きと発せられる舞台になることを望むし、自分もまた背筋を伸ばして味わいたい。そう願える作品に出会えたことを幸せに思う。
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