因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

サンプル『伝記』

2009-01-16 | 舞台
*松井周作・演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 25日まで
 今回がようやくサンプル公演初観劇となった。劇場に入ると正面ではなく右側が舞台で、左が客席になっている。浅野シェルター社長の健とその姉妹たちは、亡くなった父親の伝記を作っている。数人の職員や浅野家の使用人も一緒だ。そこに父の愛人とその息子が現れ、自分たちのことを伝記に書き加えるよう訴える。
 伝記の披露会のように始める冒頭の場面や職員たちのボール投げが、父が遭遇した空襲を象徴する趣向になっていくところや、意味不明の人物マダムKの存在、愛人とその息子の実に嫌な感じなど、個々のおもしろさ、はっと目をひく特異性など、みどころはたくさんある。俳優の演技もありきたりではなく、結構笑ってみることができた。しかしながら舞台にはすべてテーマが必要であるとか、物語性が大切だとは思わないが、何をみせようとしたのか、この空間から何を受け取ればよいのか、最後までわからなかった。過剰に意味や意義を求めず、ありのままを受け止めたいと思うのだが、困惑するばかり。舞台の作り手から「試されている」ような感覚があって、何とも居心地悪く、終演後のトークは聞かずにすぐ退出した。

 人の記憶はあくまで一人称であり、ひとつの事実も人によって見方が異なる。父親の子供たちとその異母兄弟、すべてを忠実に記録しようとする職員と、あるじに対して並々ならぬ畏敬と感謝を抱いている使用人の思惑は妥協線が見いだせず、収拾がつかなくなるさまに茫然と見入る。これが初のサンプルだが、既に足元がおぼつかなくなっている。その不安定さもおもしろがる余裕がほしい。もう少し頑張ってみよう。
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