因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

文学座12月アトリエの会『メモリアル』

2019-12-03 | 舞台

*松原俊太郎作 今井朋彦演出 公式サイトはこちら 信濃町・文学座アトリエ 15日まで
 
「演劇立体化運動―これからの演劇と岸田國士―」をテーマに掲げた2019年の文学座アトリエの会の掉尾を飾るのは、『山山』で岸田國士戯曲賞を受賞した松原俊太郎の最新作!…と公演チラシにある通り、新進気鋭の劇作家(作・演出を兼ねるスタイルが多い現在の演劇界において、劇作だけを行う希少な劇作家)の作品に、文学座アトリエの会初演出の今井朋彦が挑む。舞台には何も置かれていない。出演俳優は男女3人ずつ合計6人だ。それぞれ数役を兼ねて演じ継ぎながら、7つの場が描かれてゆく。上演時間は休憩なしの1時間45分である。

 舞台でどんなことが起こったか、俳優がどんな演技をしたのかを書こうとすると、困ったことにごく断片的なことしか思い浮かばないのである。いわゆる「物語」のような起承転結があるわけではなく、登場人物それぞれに性質や背景はあるのだが、どこを手がかりにするのか、劇世界のどのあたりに視点を向けるのか、最後までつかめなかった。時おり「笠智衆」や「教室で創価学会って言ったときの沈黙」(この記憶も曖昧)など、意表を突かれる台詞は、こちらの実感に響くものであったが、本作の核に迫る手立てにはならなかった。今の政治状況や天皇制について、ヒヤリとするほど直截な台詞もあるが、それをどのように展開させたいのか、舞台から次々に投げかけられるまま、それらを確かな手ごたえとして受け止められなかったのは残念である。

 演出の今井朋彦は、三浦基の地点公演『忘れる日本人』を見て、「新たな価値観との出会い」を果たしたとのこと(公演チラシより)。また「文学座通信」vol.723にも、平田オリザ、三浦基、岡田利規のさまざまな舞台との出会いが松原作品へとつながっていったことが記されており、非常に興味深い。劇作家と出会えたこと、それが公演として実現する演出家の喜びとは、いかばかりかと想像する。それを客席でも共有したかったのだが。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2019年12月の観劇と俳句の予定 | トップ | 二兎社公演43『私たちは何も... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事