因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ギリギリエリンギ『1K~原宿と恵比寿の間~』

2007-06-03 | 舞台
*渋谷Gallery LE DECO 5F 公式サイトはこちら 3日まで
 当日チラシに「男作家6人と男役者7人のコラボ」と記されている。「宮益坂編」と「道玄坂編」をそれぞれ3本ずつ通しでみる。渋谷周辺にあるワンルームマンションの一室で同時多発的に起こるドラマ、といったところか。

 「道玄坂編」最後の『真夜中の訪問者』が、こ、これを見終わって帰るのか?と震えがくるほどの、ちょっとした衝撃であった。脚本はブラジリィー・アン・山田(ブラジル)である。深夜、男が二人でビールを飲んでいる。部屋の主はカシワバラ(福原冠/活劇工房)なのだが、毎週日曜の深夜2時にチャイムが鳴り、女がやってくるのだという。その女を部屋に入らないように追い出してほしいと友達のトモダ(池田智哉/ギリギリエリンギ)を呼んだのだと。一向に要領を得ない話を聞くうち、一人の男(村田康二)が強引に上がり込んでくる。

 何かを隠して怯えるものと、何も知らないことに恐怖を募らせるものと、すべてを知っていて前者二人を陥れようとしているものの攻防。最後の最後、みているものに恐怖と驚きの声を上げさせる間もなく、切り落とすかのように照明が落ち、芝居は終わってしまう。

 7人の男役者は6本の芝居にいろいろな役で出るのだが、その振り幅の大きさに驚く。特に『真夜中の訪問者』の村田康二は、それまでの芝居ではすごんでいても気弱なチンピラだったり、支配者に媚びへつらうドレーであったり、「ああ、そういうキャラなのね」というこちらのイメージを、最後の最後でぶっ壊した。あの場面の彼には台詞は一言もなく、ただ部屋に戻ってくるときの様子だけで、こちらは怖くて声もでなかった。

 終演後、逃げるようにルデコを後にした。これまで数回のルデコ通いですっかり馴染んだはずの通りが怖くてならない。この気持ちを誰かに伝えたいような、でもきっとうまく言えないだろう。半年前にみたブラジル公演『恋人たち』を思い出さずにはいられなくなった。いやもっと正確に言うと、あの舞台そのものというより、見終わったあとの気持ちである。食欲がなくなった。空腹感はあるのに水しか喉を通らず、かろうじてこの記事を書いている。恐るべし、ブラジリィー・アン・山田。そして企画したギリギリエリンギの池田智哉。

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