因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

もっと出かけよう

2010-03-02 | 舞台番外編

 長野県のまつもと市民芸術館へは、因幡屋通信、えびす組劇場見聞録どちらも設置させていただいている。そのご縁があってか、広報ニューズレター『幕があがる』第15号を読む機会が与えられた。松本市の全家庭!へ配布され、街中のカフェやバー、ギャラリーなどへフリーペーパーとして設置されているとのこと。ルーマニアのシビウ国際演劇祭の立役者であるコンスタンティン・キリアク氏と、当館芸術監督の串田和美の対談にはじまり、アヴィニョンやエジンバラの演劇祭の紹介、地元でお蕎麦屋さんを営みながら、市民オペラに参加されているご夫婦のインタビューなど、「文化発信こそ地方都市が主役」のサブタイトルの通り、いろいろな立場の方々が知恵を出し合い、協力して演劇を楽しんでいる様子がうかがえる。

 もうひとつは山陰・鳥取市鹿野町にある「鳥の劇場」のこと。同町で使われなくなった幼稚園と小学校の体育館を拠点に、現代劇の創作・上演のみならず、地域の文化拠点としてさまざまな活動を行っているとのこと。ずっと以前横濱リーディング・コレクションのアフタートークで、「鳥の劇場」の名前を知ったのだが、2月後半、「鳥取の鳥の劇場で 鳥取の観客に作品をみせたい劇団に募集」という公募で、全国23の劇団から選ばれた4劇団の公演が行われた。東京からはshelfの『Little Eyolf-ちいさなエイヨルフ-』が参加し、主宰の矢野靖人氏のブログに公演のことが生き生きと書かれてあって、とても興味深く読む。鳥の劇場に行きたくてたまらなくなった。そのなかに、鳥の劇場の女優さんが「うちの自慢はお客さんです」とおっしゃっていたという記述に感嘆と羨望を覚えた。

 自分が若いころは演劇をみるなら、やるなら東京だ、東京しかないという発想に支配されていた。実際上京してみると、自分の故郷とは別世界のようにさまざまな演劇や関連の情報が溢れている。自分はそれを二十年以上にわたって享受できる環境を与えられてきた。それにはもっと感謝しなければならないだろう。しかしその一方で「東京にいれば何でも、いくらでもみられる」と怠惰に陥っている自覚もある。さらにずっとここにいられる保証もない。まったく想定外の場所で生活することになったとき、自分はどうするか。

 話が少し飛躍するが、自分はいまだにみずからの足元がしゃんとしないのである。たとえば今年のお正月、上京した家族といっしょに浅草歌舞伎に出かけた。観劇前に立ち寄った印伝の店で、「どちらからいらっしゃいましたか」と聞かれて、家族はすんなり「山口から」と答えたが、自分は答えられなかった。お店の人は「そんな遠くから!」と驚いている。こういうとき、自分は東京にも故郷どちらにも、しっかり根を張っていないことをまざまざと思い知らされるのである。

 自分がいま暮らしている町と劇場はそれぞれ点である。自分はその点を行き来し、その行為は線らしきものにはなっている。その線をもっといろいろな方向に伸ばしたい。願わくは線を太くし、面にできないだろうか。具体的にどういうことをしたいのかはまだわからないが、そう考えている。因幡屋通信、えびす組劇場見聞録は、多くの方のお骨折りやお声掛けがあって、いろいろな劇場に設置していただいている。そのなかにはまだ一度も訪れていないところも少なからずあって、フットワークを軽く、強くし、もっと出かけようと思っている。

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