因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『獏のゆりかご』

2006-09-28 | 舞台
*青木豪作・演出 シス・カンパニー公演 紀伊國屋ホール
 昨年から人気、評価ともに急上昇の劇作家青木豪の書き下ろしを、翻訳劇中心に公演していたシス・カンパニーが上演ということでも話題性の高い舞台。青木が座付き作家を務める劇団グリングの公演をみた俳優たちの熱意によって実現した企画のようである。だが2時間足らずの上演中、何かが違うという感覚がどうしても拭えなかった。杉田かおる、高橋克実、段田安則、マギーなど、テレビドラマやバラエティの出演が多い俳優が目の前にいること、素ではなく役を演じていることがどうも居心地悪いのである。ご本人には大変申し訳ないことだが、俳優としての(タレントとして、と言ったほうがいいかもしれない)キャラクターがよくも悪くもしっかり了解されてしまっており、演じる人物や物語そのものについて深く考えることができにくかったのだ。

 青木豪はあて書きの名手だと思う。ひとりの俳優の個性や特質をよくよく知った上で、その人にぴたりの役を作り上げる。のみならず新しい冒険、挑戦的な面も加えるから、グリングの公演をみるたびに「ああ、あの俳優さんにぴったりだ」という安心感とともに、「こんなところもあるんだ」という新鮮な驚きも味わえるのである。

 今回の出演俳優が青木豪に寄せる信頼が絶大なものであることが、演劇情報誌の記事や公演パンフレットでもよく伝わってくる。劇作家に惚れ込み、あの世界を演じたいという意欲に溢れている。しかし彼らがこぞって口にする「青木ワールドの醍醐味」「青木豪の世界」とは、どんなものなのだろうかと改めて考えたとき、今の自分には的確に表現することができない。

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