読売新聞が、高倉健さんのインタビューを掲載しています。記録しておきましょう。
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高倉健、6年ぶり主演作「あなたへ」…旅、人思う、思われる
「あなたへ」。日本を代表する俳優、高倉健が6年ぶりに主演した映画のタイトルだ。亡き妻の古里を訪ねる旅に出て、人々との出会いと別れを経験する主人公は、人生や映画を旅にたとえる高倉その人に重なる。80歳を超えて、なお旅し続ける俳優が、「あなたへ」に込めた思いを語った。
■震災
――「あなたへ」への出演は、前作「単騎、千里を走る。」以来ですね。
「仕事してないよな。映画のお話はいっぱいいただいてたんだけど、何で『あなたへ』を選んだのかな。何となく断っていると、また、2、3年、仕事しなくなっちゃうかなとは思いました。僕の年齢のことを降旗(康男)監督と話していて、ここらで仕事をしておかないとって」
――東日本大震災が起きて、心境が変化したということですか。
「いや、震災の前にこの映画をやるって決めていましたから。ただ、震災があって、映画に対する気持ちの入れ方は変わりました。実は台本の後ろのページに、一枚の写真を張っていました。被災地のがれきの中を、給水所でもらった水を持って歩く少年の写真です。毎朝、台本を見るたびに、こんなちっちゃい子でも健気(けなげ)にしているんだから、自分もしっかりしなきゃいけないと言い聞かせました」
――高倉さんにとって、「あなたへ」という映画そのものが、観客へのメッセージなのではないですか。
「人のことを思うとか、人に思われるということが生きていくうえで一番大事なことなんじゃないか。撮影しながら、そんなことを考えましたね」
――現代の日本人が失ってしまったものですね。
「そういうことにハッと気づかされたのは、『単騎、千里を走る。』を中国雲南省で撮影した時でした。少数民族ペー族の10代の女の子をかわいがっていたんだけど、ある日、『親切にしてくれたお礼に、自分の家で3年間太らせた豚をごちそうしたい』って言ってくれた。僕らスタッフは警備が厳重なところに泊まっていて、チャン・イーモウ監督も『ノー』と返事した方がいいって首を振るんですよ。だけど、僕はいたくそれが心に残ったので、彼女に子供ができた時に乳母車を贈りました。彼女の村では乳母車見たことがないっていうんだけど、ものがない方が幸せなんじゃないかと思いましたね」
■平戸
――中国もそうですが、高倉さんは日本だけでなく、世界各地を旅して、多くの人との出会いを重ねています。「あなたへ」もまさに、旅の映画ですね。
「旅、旅の連続だったね」
――富山を出発し、飛騨高山、長崎・平戸を経て、福岡・門司まで撮影の旅は続きました。発見も多かったのではないですか。
「平戸で、教会と寺が向き合っているのにはどきっとしました。天草の乱以降の歴史のせいなんだろうけど、お墓の裏側に十字架が彫ってあったりね。墓に供える花が毎日替えてあるのも印象的だった。漁村は小さい家が多いんだけど、『花は毎日全部替える』って言う。港の方を向いて墓が並んでいるのは、船が出たら無事に帰ってくるようにってことなんでしょうね」
■山頭火
――劇中、放浪の俳人、種田山頭火の俳句が効果的に引用されます。
「以前、(脚本家の)早坂暁さんに『山頭火書こうと思うから、健さんにやってほしい』と言われたことがあるんですよ。僕は、『ええ! あの坊主みたいな』って断ってしまった。そうしたら、フランキー堺が演じたんで、『なんで、あんなのやったの』って聞いた。僕はずれてるんですね。勉強不足だったな。あんないい句を作っている人なのに。でも、なぜ、早坂さんは、僕に山頭火をやらせようとしたのか。今度会ったら聞いてみたい」
――山頭火の句で好きな句はありますか。
「この間、取材を通して教えられた『何を求める風の中ゆく』。これはすごいですね。『何を求めて仕事をしているのかな』って。今の僕の心境かな」
――高倉さんは何を求めているのでしょうか。
「分からない。山頭火が分からないんだから。分かるころには死ぬんでしょうね」
――「あなたへ」を完成した後でも分からない。
「分かってないと思いますね。ただ、映画を撮影してなきゃだめだということは分かりました。俳優は撮ってなかったら、どんな能書きを垂れてもダメだってことは」
――どんな場面でそう思ったのですか。
「(船頭役の)大滝秀治さんが、『久しぶりにきれいな海ば見た』というセリフを言うんだけど、力のある俳優さんが言うと、同じセリフでも違うものになる。目の前でそれを見せてもらって、涙出ましたよ、ぽろっと。あんなことは、長い間俳優をしていてもなかったですね」
――映画を通して伝えられることは少なくないはずです。
「東北の被災地を訪ねたいと思っても、まだ行けていない。写真の少年も僕の発言で、メディアに注目されてしまって、無礼なことをしたと反省しています。そう考えると、僕らは一生懸命映画を撮るしかないということでしょうね。見た人に何かを与えることができるのであれば」(聞き手・文化部 近藤孝)
たかくら・けん
1931年福岡県生まれ。明治大卒業後、56年に映画「電光空手打ち」でデビュー。以後、「昭和残侠伝」「網走番外地」シリーズなどをヒットさせ、スター俳優の座を確立した。78年、「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」で第1回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞。99年の「鉄道員(ぽっぽや)」では、第23回モントリオール世界映画祭で最優秀男優賞に輝いた。著書に『あなたに褒められたくて』『旅の途中で』など。
「あなたへ」
「あなたへ」 富山の刑務所の指導技官(高倉健)が、死んだ妻(田中裕子)の遺言を受け取るために、キャンピングカーを運転して、彼女の古里の長崎・平戸に向かう。旅の途中、元教師(ビートたけし)、イカ飯の実演販売をする男(草なぎ剛)と部下(佐藤浩市)ら、それぞれの人生を背負った人々と一期一会の出会いを重ねていく。25日公開。(なぎは弓ヘンに剪)
(2012年8月10日 読売新聞)
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ここで健さんが語っているのは、NHKドラマスペシャル『山頭火 何んでこんなに淋しい風ふく』のこと。1989年11月3日に放送されています。(詳しくは、http://www.tvdrama-db.com/drama_info/p/id-25743へ。)
上のサイトによれば、渥美清がだめでフランキー堺が山頭火を演じたとなっていますが、もし健さんが引き受けていたら、絶対にそれで決まりだったのでしょう。見たいものでした、健さんの山頭火。
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健さん関連本が出版されています。レビューを裏ブログにアップロードしました。ご参照ください。(こちらを、クリック!)
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