東京都中央卸売市場で、2018年に廃棄処分になったのは水産物7944トン(魚腸骨除く)、青果1万2823トン。国内外から選別された魚が集結するはずの中央市場ですら、そうだ。年々、漁獲減が深刻化する日本の大きな矛盾である。そんな中、無価値の魚に価値を見出す“魚のアップサイクル”に尽力する人たちがいる。

「漁師から見るとカスザメは、高値で取引されるヒラメを食べちゃう害魚です。でも、サメにしては珍しく無味無臭で高たんぱく・低カロリー。弾力のある身はフライにぴったりです。またシュモクザメはすり身にして蒸すと、二度と市販のかまぼこが食べられなくなるほど。そこに山いもをすりおろし、油で揚げると、これまた、極上のさつま揚げができます」

 神奈川県片瀬海岸にある片瀬漁港畑中将さん(50才)は、この漁港を拠点とする漁師の1人。刺網漁(魚の通り道に網を仕掛けて獲る手法)では50尾ものカスザメが網にかかることもあるという。

「小さいのは海に返すんだけどね…。ここの直売所でも時々切り身が並ぶけど、一般の人は手を出しにくいよね、やっぱり」(畑中さん)

◆ぼくは魚を人をつなぐ通訳者だと思っています

「イシガニ、取っといたぞ。持って行くか?」

 江の島 片瀬漁港の直売所に「Kai's Kitchen」のオーナーシェフ、甲斐昂成さん(30才)が姿を見せると、漁協関係者が声をかけた。「持ってく!」と即答。「地元ではまず誰も食べませんが、みそ汁にするとうまいんです」と甲斐さんはうれしそうだ。

 江の島 片瀬漁港をはじめ、横浜中央卸売市場、三崎漁港などで、甲斐さんは「変わった魚が大好きなヘンな料理人」として知られている。

 形や数がそろわない“雑魚”たち、イシガニのように値すらつかない魚介、うち捨てられたエイの肝…。前出の畑中さんもそうだが、甲斐さんが漁港に出入りするようになって、漁師や漁業関係者がそれまでは捨てていた“ジャンク魚”を見直し始めた。もしかしたらこの魚も…と考えるようになったのだ。

「魚を捨てたい漁師はいませんからね。このジャンクな魚をどう料理しようかとニヤニヤしているぼくを見ると、ちょっと楽しくなるのかもしれない(笑い)」(甲斐さん)

 甲斐さんは熊本県出身。5才から叔父と海釣りに没頭、小学校に入ると、仕事で忙しい母に代わって料理を作り始めた。熊本大学の工学部に推薦で入学してマテリアル工学を専攻するも、魚を追いかけるのに忙しく、卒業に6年を要した。

 卒業後は東京の大手飲食グループ企業に就職し、全国の漁師から直接魚を買い付ける業務を担当。ここで甲斐さんは日本の魚と漁業を学び、「価値のない魚に価値を見出す」ことの楽しさ、重要性を知ったのだった。

「ぼくは自分を魚と人をつなぐ通訳者だと思ってます。たとえばウツボは、姿形がグロテスクすぎて“食べる”なんて誰も考えない。でも、臭みもないしたたきにするとコリコリと抜群においしくて、食べた人はみんなびっくりします」(甲斐さん)

 価値なき魚の価値を見つけるのと同時に、漁をコントロールして海の生態系維持を図ることが必要だと、甲斐さんは言う。

「最近のサバ缶人気でサバの子まで根こそぎ水揚げされて価格が高騰し始めています。流行り廃りに左右されて乱獲を続けると、結局人間が困るんです。サバ缶ブームも早晩、必ず終わる。あとに残るのは、行き場を失ったサバ缶という名の深刻な食品ロスです。今年のサバ缶製造はあと○個作ったら終わり! と制限する勇気が必要だと思います」

※女性セブン2019年6月13日号

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安くて美味しい魚があったら、ジャンクであっても、最高です。そんなジャンク魚が一般に流通することを願ってやみません。