囲碁は好きですが、最近は専門誌を読まないもので知らないでいたら、ものすごく面白い布石が開発されていました。記録しておきましょう。
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張、挑む異次元布石 ブラックホール「未来の囲碁界へ問いかけ」
朝日新聞 2014年11月25日16時30分
囲碁の元名人、張栩九段(34)がいま、常識を度外視した「新布石」を編み出し、盤上に新たな可能性を見いだそうとしている。一流棋士によるこの挑戦は、序盤戦そのものがパターン化されつつある現代碁への提言でもある。
張が試みているのは図の黒1。陣取りゲームである囲碁は、陣地を囲いやすい隅のaやbから打つのがほとんどで、趣向といってもc、d、e、f程度。黒1まで隅から離れるのは常識にはない。
張は、この黒1の位置に魅力を感じている。公式戦としては今年7月の名人戦リーグ、山下敬吾九段戦で初めて披露。その際は、相手の石がaにある状況だった。その後も度々、黒1の地点に打っている。「使いこなすのは難しいけれど有力な一手」と胸を張る。
特に黒1、3、5、7の4カ所を占めた形を「ブラックホール」と呼ぶ。斜めに傾いた正方形が盤上に浮かび上がる独特な布陣だ。
この新布石を打つようになったのは、昭和初期に新しい布石に取り組んだ呉清源九段と故・木谷実九段の碁に刺激を受けたから。呉が100歳を迎えた今年、改めてその棋譜を並べ、生き生きとした発想に驚かされた。「昔の碁なのにぜんぜん古くない。自分がその時代にいたらどんなことをするだろう」と考えた。
現代は中国、韓国を中心に序盤研究が進み、場合によっては何十手も同じという碁ができる。「(全局的な石の配置である)布石が、どんどん(部分的な)定石のようになっている。前例を平然と繰り返すことには違和感がある」という張は、「それはちょっと退屈。見ている方もつまらないのでは」とも語る。
2003年、張は23歳で本因坊になった。翌年、名人となり、09年には史上初の五冠を達成。第一人者が打つ形はプロ、アマを問わずまねされた。「人とは違う少しひねったことをしてきたつもり。でも、そのひねりがいつしか主流になった」。得意な戦型にすら、ためらいを感じた。
張のこれまでの趣向は常識の範囲内だったが、今回は違う。「新しいことをするのは勇気がいるし、馬鹿にされるかもしれない。でも常識にとらわれないというアンテナを残しておかないといけない。長くやればやるほど固定観念が強くなって、結果、弱くなっていくかもしれない。それでは魅力ある碁が打てない」
現在は六冠・井山裕太名人(25)中心の時代へと移った。張は今も指折りの一流棋士だが、ここ数年は以前ほどの成績が残せない。「勝てているうちはそれでよかった。でもいま、自分のできることはなにか、存在意義とは」と自問する。新布石への傾倒は、その思いと無縁ではないという。
「囲碁って、絶対にこう打たなければだめ、というものではなくて、もっと自由なもの。こんな手もあるんだという提案というのでしょうか。未来の囲碁界への問いかけ。そういう気持ちもあります」
■「ワクワクする」蘇耀国九段
張の新布石を打つ棋士がもう一人いる。研究会仲間の蘇耀国九段(35)だ。張よりも先に8月、公式戦でブラックホールの形を実現した。
「僕はこの布陣を攻めに活用しようとしますが、張さんは陣地を取る意識が強い。別な人なら中央を囲うかもしれない。最初だけは一緒でも、そこから自分の考えで打てるのがいい」
蘇も序盤研究が進みすぎた現在の碁はつまらないという。勝負の世界に身を置きつつも「あまりにも勝ちにこだわって研究通りに打つと、序盤の何十手は頭を使わなくたって打ててしまう」と疑問を投げかける。
「この布石はワクワクする。囲碁が好きでプロになった。本来の楽しさを思い出させてくれるし、もしこれで勝てたら幸せです」
公式戦でのブラックホールは計5回(張1回、蘇4回)。結果は全勝だ。
(伊藤衆生)
<ブラックホール>
囲碁は一般に隅、辺、中央の順に打ち進められる。張は「だから盤上はただの平面ではなく、重力が存在する」と語る。そして「隅が大きいといわれているバランスが、黒1~7のつかみどころのない手によって崩される。盤上の重力にゆがみが生じるような気がするんです」という。
これまでの感覚にない不思議な布陣に対し、常識通りの対応だけではうまくいくとは限らない。「相手の気がつかないうちにこちらがリードしている。相手を精神的にのみ込んでしまうという意味で、ブラックホールと名付けました」
(ブラックホールの名称は過去に他の棋士が別の布石に使った例がある)
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いいですねえ、この斬新さ。愉しいったらありゃしません。このおふたりにはどんどん試してもらって、囲碁界に新風を巻き起こしてほしいものです。そして、この布石が主流になったらなったで、また新しい手に挑戦してもらえればと思います。碁って、勝ち負けだけではないでしょうから。
がんばってください、張栩九段、蘇耀国九段!
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