いわゆる慰安婦問題についてのアメリカ下院外交委員会の決議を受けての今日の各紙の社説を集めてみました。当然、朝日・東京・毎日は、史実を無視して、謝罪せよの一辺倒。まずまず読めるのは、産経。そして一番毅然としているのが、読売となっています。記録しておきましょう。
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慰安婦決議―首相は深刻さを認識せよ
「日本政府は……歴史的な責任を公式に認め、謝罪し、受け入れるべきだ」
米下院の外交委員会が、旧日本軍の慰安婦問題についての決議案を可決した。39対2の圧倒的多数だった。7月にも本会議で採択される見通しだ。
日本が過去の過ちを反省していないと、米議会が国際社会の面前で糾弾している。その意味は重い。
私たちは、首相の靖国神社参拝や慰安婦など歴史認識がからむ問題に、政治家が正面から取り組むべきだと主張してきた。戦前の行動や価値観を正当化するかのような言動は、日本の国際的な信用にもかかわることだからだ。
それがこんな事態に立ち至ったことに、やりきれない思いである。日本がそんな国と見られているのかと思うと残念であり、恥ずかしい。
決議案に疑問がないわけではない。歴代首相が元慰安婦におわびの手紙を出してきたことが触れられていないし、軍の関与を認めて政府として謝罪した河野談話の位置づけも不十分だ。
しかし、決議案にあるように、河野談話を批判したり、教科書の記述を改めたりする動きがあったのは事実だ。慰安婦の残酷さを非難する決議案のメッセージは、真摯(しんし)に受け止める必要がある。
今回、決議案が採択の方向となったことについて、戦術的な失敗が指摘されている。今月、ワシントン・ポスト紙に決議案に反論する意見広告が掲載された。それが、沈静化していた問題に再び火をつけたという批判だ。
確かに、40人あまりの与野党の国会議員とともに、安倍首相のブレーンの外交評論家まで名を連ね、決議案を「現実の意図的な歪曲(わいきょく)」などと批判した全面広告は異様だった。4月の初訪米でおわびを述べた首相の言葉は台無しになったと言えるだろう。
だが、問題の本質は、自らの歴史の過ちにきちんと向き合えない日本の政治自体にある。
安倍首相は「米議会ではたくさんの決議がされている。そういう中の一つ」「コメントするつもりはない」と述べた。とんでもないことだ。日本に重大な疑念と非難が向けられているのである。河野談話やアジア女性基金などの取り組みを説明し、改めて認識を語るべきだ。
首相は日米同盟の土台として「共通の価値観」を強調する。だが、決議案はその価値観にかかわる問題であることを、首相は分かっていないのではないか。
日本は戦後、自由と人権を重んじる民主主義国として再生し、侵略と植民地支配などの過去を深く反省した。「過去の反省」が揺らいでいる印象を与えれば、価値観への疑念を招く。
小泉前首相の靖国参拝以来、日本の歴史への取り組みに対する国際社会の目は厳しい。日本の民主主義は大丈夫なのか。今回の決議案はその警告として受け止めるべきである。
慰安婦決議案 日米間のトゲにするな
2007年6月28日 東京新聞
対日非難決議案の細部や米政界の思惑などに反発しても建設的な効果は見込めまい。従軍慰安婦問題の歴史的な暗部を直視し、従来の反省と対応を繰り返し説明して、日本の信頼感を築きたい。
第二次世界大戦中の従軍慰安婦問題をめぐり、日本政府を追及する決議案が米下院外交委員会で採択された。慰安婦制度は日本政府による強制売春だったと判定し、事実と歴史的責任を認めて謝罪するよう促している。
賛成三九、反対二という投票結果は、超党派の厳しい空気の反映だ。下院本会議でも、採決されれば可決は確実とされる。
一方、決議案には日米同盟の重要性を確認する項目も、付け加えられた。一九九三年に河野洋平官房長官が旧日本軍の関与を認めて「おわびと反省」を表明した談話にも触れ、談話の誠意について理解を広げるためにも謝罪すべきだと論じた。
日本側も、責任逃れと受け取られるような反論に精力を費やすべきではない。多数の女性の名誉と尊厳を損なった責任を受け入れ、謝罪の気持ちと、これまでに示した誠意を、繰り返し説明するほかない。
この問題は、日米両国間の対立の芽にしてはいけない。アジアの近隣国が必ずしも政治的に工作したわけでもあるまい。旧軍の加担などで心身に傷を負った女性らに機会ごとに謝罪し、現在の日本の人権感覚、倫理観について米国、国際社会の理解と信頼を得ることが正道だ。
ただし、対日非難が何度も蒸し返される原因については、教訓を学んでおく必要がある。
安倍晋三首相は、四月に訪米した際、ブッシュ大統領に「心から同情している。申し訳ない思いだ」などと心境を説明し、大統領は謝罪を受け入れた。首相は、米議会指導者らにも同様の心境を説明している。
それで沈静化したはずの問題が再燃したのは、今月半ば、日本の一部の評論家らが米紙に意見広告を掲載し、慰安婦募集をめぐる「狭義の強制性」の否定といった事実認識を展開したためともいわれる。
特定の有志の広告が対日政府決議案の引き金になったとすれば遺憾だが、その背景には、首相が当初、官憲による強制連行などを否定する見解を強調していた経緯もある。
米政界では、来年の大統領選や議会選を控え、アジア系組織票に敏感になっている議員は少なくない。人権重視の姿勢を有権者に訴えたい議員も多いだろう。首相は現実の環境も考慮に入れ、さまざまな発言に繊細な注意を払わねばならない。
社説:「従軍慰安婦」決議 安倍外交にも問題がある
米下院外交委員会はいわゆる従軍慰安婦問題に関する対日謝罪要求決議案を可決した。決議案は「日本政府は、帝国軍隊が若い女性に性的奴隷を強制したことに対して明確に公式な謝罪をすべきだ」という内容である。
外交委での決議は昨年9月に続いて2度目だが、今回はぺロシ議長が採択を目指す意向を表明し、来月中にも本会議で初めて可決される可能性が高まっている。
日本政府は93年の河野洋平官房長官(当時)の談話で、旧日本軍の関与を認め「心からおわびと反省の気持ちを申し上げる」と謝罪した。
安倍晋三首相も河野談話を踏襲し、4月の訪米ではブッシュ大統領や議会関係者におわびの気持ちを表明している。米国内にも「残念なのは慰安婦問題をめぐる米国内の動きだ。日本の首相が謝罪しているにもかかわらず、こういうことが続くのか」(ダニエル・イノウエ上院議員)という日本を擁護する声もある。
それにもかかわらず日本の立場が理解されず可決に至ったことは極めて残念なことだった。
可決に対して塩崎恭久官房長官は「他国の議会の決定にコメントすべきではない」と語っている。 しかし他国の議会ではあるが、米国民を代表する議員の意思表示は重く受け止めねばならない。日米関係に影響を与えかねない事態で、従軍慰安婦問題が将来にわたって両国関係を損なわないような対応をしなければならない。
今回の事態を招いた要因としては、安倍首相の姿勢にも問題があった。首相は3月、国会答弁で決議案に関連して「軍や官憲による強制連行を示す記述は(資料に)見当たらなかった」と「狭義の強制性」を否定した。
首相は就任前は河野談話に批判的な立場をとっており、首相発言は河野談話の見直し論にくみするものと受け止められてしまった。このため米メディアを中心に激しい批判にさらされた。首相は訪米でおわびの気持ちを表明したが、結果的には議会の対応に何らの影響も与えることはできなかった。
さらに今月14日付の米紙に平沼赳夫元経済産業相ら国会議員や評論家らから、従軍慰安婦の強制性を否定する内容の全面広告が出された。これに対してはラントス外交委員長が「事実に対抗するばかげた主張だ」と反発するなど可決の呼び水になってしまった。
平沼氏は27日「事実に基づかない決議は両国に重大な亀裂を生じさせる」との声明文を発表した。しかし強制性を否定する平沼氏らの言い分が、米議会では理解されていないことが明らかになったことも事実だ。
3月末に解散したアジア女性基金では、償い金を届けたり歴代首相がおわびの手紙を送るなどの活動を行ってきた。しかし政府はそういう努力を世界に十分アピールしてこなかった。「他国のこと」と片づけるのではなく首相が先頭に立って、河野談話に基づいて誠心誠意、日本の立場を説明し続けることが必要だ。
毎日新聞 2007年6月28日 0時18分
【主張】慰安婦決議案 事実を示し誤解を解こう (産経新聞)
米下院外交委員会で、慰安婦問題で日本の首相に公式謝罪を求める対日非難決議案が賛成多数で可決された。残念な結果である。
可決された決議案は「日米同盟がアジア太平洋地域に占める重要性」を盛り込むなどの修正が加えられ、民主党のマイク・ホンダ議員が提出した当初の決議案より表現がやや緩やかになっている。しかし、「慰安婦制度は日本政府による軍用の強制的な売春」と決めつけるなど、多くの誤りを含んでいる。
慰安婦問題をめぐり、日本の官憲が奴隷狩りのように強制連行したという説が一部で流布されたこともあるが、日本政府が2年がかりで集めた約230点の資料の中には、そのような事実を示す証拠は1点もなかった。慰安婦は主として民間の業者によって集められ、軍は性病予防対策などで関与していたのである。
決議案は来月にも下院本会議で採決される見通しだ。議会の決議に法的拘束力はないが、国際社会では、誤った事実に対して何も反論しないことは、それを認めたことになりかねない。日本の外務当局はこれまでに集めた公式文書などを有効に使って誤りを正すべきである。
米下院外交委員会では、慰安婦問題をナチス・ドイツが行ったホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と同列に論じる非難の声も上がったといわれる。南京事件などをめぐり、これまでも米国の州議会などでしばしば繰り返されてきた誤解である。
米国でベストセラーになった中国系米国人、アイリス・チャン氏の著書『レイプ・オブ南京-第二次大戦の忘れられたホロコースト』の影響がいまだに残っているようだ。
4月末の日米首脳会談で、安倍晋三首相は「慰安婦の方々が非常に困難な状況の中、辛酸をなめられたことに対し、人間として首相として心から同情している」と述べた。ブッシュ大統領もこれを評価した。最近、外務省が米国で実施した対日世論調査でも、日本を「信頼できる」と答えた一般人が74%と過去最高を記録した。
日米同盟を一層揺るぎないものにするためにも、歴史問題で正しい事実を示し、誤解を解く粘り強い外交努力が必要である。
(2007/06/28 05:03)
慰安婦決議 米議会の「誤解」の根元を絶て(6月28日付・読売社説)
いわゆる従軍慰安婦をめぐる対日決議案が米下院外交委員会で採択された。全くの事実誤認に基づく決議である。
日本政府は、将来に禍根を残さないよう、米側の誤解をときほぐし、当面、本会議での採択阻止に努めなければならない。
決議案は日本政府に対し、「日本の軍隊が若い女性を強制的に性的奴隷化」したことへの歴史的責任を認め、謝罪せよと言う。「慰安婦制度は20世紀最大の人身売買事案の一つ」と表現している。
事実をきちんと確かめることもせず、低水準のレトリックに終始した決議案だ。米議会人の見識を疑わせる。
安倍首相は4月、米大統領や議会首脳らとの会談で、元慰安婦への「心からの同情」と「申し訳ない思い」を表明した。「20世紀は人権侵害の多い世紀で、日本も無関係でなかった」とも述べた。
だが、こうした首相の発言も、決議案の採択見送りにつながらなかった。
米議会で採択される数多くの決議の一つにすぎない。法的な拘束力もない。従って、重く受け止める必要はない、という指摘もある。
これは間違っている。反論することを控えれば、この誤った「歴史」を独り歩きさせるだけだろう。
戦前、親やブローカーの手で、自らの意思に反して、慰安婦にさせられた女性は多数いた。しかし、これと、日本軍による、いわゆる「強制連行」とは、明らかに意味が違う。
「軍や官憲による強制連行」を直接示す資料は、これまでの調査で何も見つかっていない。政府は、今年3月の答弁書でも、この点を明確にしている。
一体、対日決議案は、何を論拠にしているのか。大きな拠(よ)り所とされているのが、1993年に出された河野官房長官談話だ。そこには「官憲等が直接加担した」などと、「強制連行」があったと誤って受け止められる記述がある。
当時、慰安婦問題での韓国側の圧力をかわすために考えられた政治的文言が、その後、誤解を広げた根元にある。
安倍首相は、「河野談話」を継承すると言う。外交的配慮からだろうが、その立場をとる限り、「強制連行」という誤解は消えない。談話に誤りがあるなら、見直しを躊躇(ちゅうちょ)するべきではない。
麻生外相は3月、決議案をめぐる動きについて、「日米を離間させる工作」と指摘した。背後で、中国・韓国系の反日団体などが影響力をふるっている。
このままでは、謝罪要求が繰り返されることになりかねない。筋道を立てて歴史の事実を明らかにしていくべきだ。
(2007年6月28日1時46分 読売新聞)
**********
朝日・東京・毎日に対しては、いちいち事実誤認について指摘しませんが、アメリカの誤解を正そうともせず、アメリカのいうことを受け入れよというのは、あまりにムチャクチャな議論。ペンは剣よりも強しと思うのであれば、いまこそ日本の国益のために戦うのが大新聞の務めでありましょう。
その意味で、日本国民は読売が指摘しているように、この決議の裏に中国・韓国の思惑があることを承知しておかなければなりません。ただ謝ればそれですむという発想は国際外交にはないのですから。
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慰安婦決議―首相は深刻さを認識せよ
「日本政府は……歴史的な責任を公式に認め、謝罪し、受け入れるべきだ」
米下院の外交委員会が、旧日本軍の慰安婦問題についての決議案を可決した。39対2の圧倒的多数だった。7月にも本会議で採択される見通しだ。
日本が過去の過ちを反省していないと、米議会が国際社会の面前で糾弾している。その意味は重い。
私たちは、首相の靖国神社参拝や慰安婦など歴史認識がからむ問題に、政治家が正面から取り組むべきだと主張してきた。戦前の行動や価値観を正当化するかのような言動は、日本の国際的な信用にもかかわることだからだ。
それがこんな事態に立ち至ったことに、やりきれない思いである。日本がそんな国と見られているのかと思うと残念であり、恥ずかしい。
決議案に疑問がないわけではない。歴代首相が元慰安婦におわびの手紙を出してきたことが触れられていないし、軍の関与を認めて政府として謝罪した河野談話の位置づけも不十分だ。
しかし、決議案にあるように、河野談話を批判したり、教科書の記述を改めたりする動きがあったのは事実だ。慰安婦の残酷さを非難する決議案のメッセージは、真摯(しんし)に受け止める必要がある。
今回、決議案が採択の方向となったことについて、戦術的な失敗が指摘されている。今月、ワシントン・ポスト紙に決議案に反論する意見広告が掲載された。それが、沈静化していた問題に再び火をつけたという批判だ。
確かに、40人あまりの与野党の国会議員とともに、安倍首相のブレーンの外交評論家まで名を連ね、決議案を「現実の意図的な歪曲(わいきょく)」などと批判した全面広告は異様だった。4月の初訪米でおわびを述べた首相の言葉は台無しになったと言えるだろう。
だが、問題の本質は、自らの歴史の過ちにきちんと向き合えない日本の政治自体にある。
安倍首相は「米議会ではたくさんの決議がされている。そういう中の一つ」「コメントするつもりはない」と述べた。とんでもないことだ。日本に重大な疑念と非難が向けられているのである。河野談話やアジア女性基金などの取り組みを説明し、改めて認識を語るべきだ。
首相は日米同盟の土台として「共通の価値観」を強調する。だが、決議案はその価値観にかかわる問題であることを、首相は分かっていないのではないか。
日本は戦後、自由と人権を重んじる民主主義国として再生し、侵略と植民地支配などの過去を深く反省した。「過去の反省」が揺らいでいる印象を与えれば、価値観への疑念を招く。
小泉前首相の靖国参拝以来、日本の歴史への取り組みに対する国際社会の目は厳しい。日本の民主主義は大丈夫なのか。今回の決議案はその警告として受け止めるべきである。
慰安婦決議案 日米間のトゲにするな
2007年6月28日 東京新聞
対日非難決議案の細部や米政界の思惑などに反発しても建設的な効果は見込めまい。従軍慰安婦問題の歴史的な暗部を直視し、従来の反省と対応を繰り返し説明して、日本の信頼感を築きたい。
第二次世界大戦中の従軍慰安婦問題をめぐり、日本政府を追及する決議案が米下院外交委員会で採択された。慰安婦制度は日本政府による強制売春だったと判定し、事実と歴史的責任を認めて謝罪するよう促している。
賛成三九、反対二という投票結果は、超党派の厳しい空気の反映だ。下院本会議でも、採決されれば可決は確実とされる。
一方、決議案には日米同盟の重要性を確認する項目も、付け加えられた。一九九三年に河野洋平官房長官が旧日本軍の関与を認めて「おわびと反省」を表明した談話にも触れ、談話の誠意について理解を広げるためにも謝罪すべきだと論じた。
日本側も、責任逃れと受け取られるような反論に精力を費やすべきではない。多数の女性の名誉と尊厳を損なった責任を受け入れ、謝罪の気持ちと、これまでに示した誠意を、繰り返し説明するほかない。
この問題は、日米両国間の対立の芽にしてはいけない。アジアの近隣国が必ずしも政治的に工作したわけでもあるまい。旧軍の加担などで心身に傷を負った女性らに機会ごとに謝罪し、現在の日本の人権感覚、倫理観について米国、国際社会の理解と信頼を得ることが正道だ。
ただし、対日非難が何度も蒸し返される原因については、教訓を学んでおく必要がある。
安倍晋三首相は、四月に訪米した際、ブッシュ大統領に「心から同情している。申し訳ない思いだ」などと心境を説明し、大統領は謝罪を受け入れた。首相は、米議会指導者らにも同様の心境を説明している。
それで沈静化したはずの問題が再燃したのは、今月半ば、日本の一部の評論家らが米紙に意見広告を掲載し、慰安婦募集をめぐる「狭義の強制性」の否定といった事実認識を展開したためともいわれる。
特定の有志の広告が対日政府決議案の引き金になったとすれば遺憾だが、その背景には、首相が当初、官憲による強制連行などを否定する見解を強調していた経緯もある。
米政界では、来年の大統領選や議会選を控え、アジア系組織票に敏感になっている議員は少なくない。人権重視の姿勢を有権者に訴えたい議員も多いだろう。首相は現実の環境も考慮に入れ、さまざまな発言に繊細な注意を払わねばならない。
社説:「従軍慰安婦」決議 安倍外交にも問題がある
米下院外交委員会はいわゆる従軍慰安婦問題に関する対日謝罪要求決議案を可決した。決議案は「日本政府は、帝国軍隊が若い女性に性的奴隷を強制したことに対して明確に公式な謝罪をすべきだ」という内容である。
外交委での決議は昨年9月に続いて2度目だが、今回はぺロシ議長が採択を目指す意向を表明し、来月中にも本会議で初めて可決される可能性が高まっている。
日本政府は93年の河野洋平官房長官(当時)の談話で、旧日本軍の関与を認め「心からおわびと反省の気持ちを申し上げる」と謝罪した。
安倍晋三首相も河野談話を踏襲し、4月の訪米ではブッシュ大統領や議会関係者におわびの気持ちを表明している。米国内にも「残念なのは慰安婦問題をめぐる米国内の動きだ。日本の首相が謝罪しているにもかかわらず、こういうことが続くのか」(ダニエル・イノウエ上院議員)という日本を擁護する声もある。
それにもかかわらず日本の立場が理解されず可決に至ったことは極めて残念なことだった。
可決に対して塩崎恭久官房長官は「他国の議会の決定にコメントすべきではない」と語っている。 しかし他国の議会ではあるが、米国民を代表する議員の意思表示は重く受け止めねばならない。日米関係に影響を与えかねない事態で、従軍慰安婦問題が将来にわたって両国関係を損なわないような対応をしなければならない。
今回の事態を招いた要因としては、安倍首相の姿勢にも問題があった。首相は3月、国会答弁で決議案に関連して「軍や官憲による強制連行を示す記述は(資料に)見当たらなかった」と「狭義の強制性」を否定した。
首相は就任前は河野談話に批判的な立場をとっており、首相発言は河野談話の見直し論にくみするものと受け止められてしまった。このため米メディアを中心に激しい批判にさらされた。首相は訪米でおわびの気持ちを表明したが、結果的には議会の対応に何らの影響も与えることはできなかった。
さらに今月14日付の米紙に平沼赳夫元経済産業相ら国会議員や評論家らから、従軍慰安婦の強制性を否定する内容の全面広告が出された。これに対してはラントス外交委員長が「事実に対抗するばかげた主張だ」と反発するなど可決の呼び水になってしまった。
平沼氏は27日「事実に基づかない決議は両国に重大な亀裂を生じさせる」との声明文を発表した。しかし強制性を否定する平沼氏らの言い分が、米議会では理解されていないことが明らかになったことも事実だ。
3月末に解散したアジア女性基金では、償い金を届けたり歴代首相がおわびの手紙を送るなどの活動を行ってきた。しかし政府はそういう努力を世界に十分アピールしてこなかった。「他国のこと」と片づけるのではなく首相が先頭に立って、河野談話に基づいて誠心誠意、日本の立場を説明し続けることが必要だ。
毎日新聞 2007年6月28日 0時18分
【主張】慰安婦決議案 事実を示し誤解を解こう (産経新聞)
米下院外交委員会で、慰安婦問題で日本の首相に公式謝罪を求める対日非難決議案が賛成多数で可決された。残念な結果である。
可決された決議案は「日米同盟がアジア太平洋地域に占める重要性」を盛り込むなどの修正が加えられ、民主党のマイク・ホンダ議員が提出した当初の決議案より表現がやや緩やかになっている。しかし、「慰安婦制度は日本政府による軍用の強制的な売春」と決めつけるなど、多くの誤りを含んでいる。
慰安婦問題をめぐり、日本の官憲が奴隷狩りのように強制連行したという説が一部で流布されたこともあるが、日本政府が2年がかりで集めた約230点の資料の中には、そのような事実を示す証拠は1点もなかった。慰安婦は主として民間の業者によって集められ、軍は性病予防対策などで関与していたのである。
決議案は来月にも下院本会議で採決される見通しだ。議会の決議に法的拘束力はないが、国際社会では、誤った事実に対して何も反論しないことは、それを認めたことになりかねない。日本の外務当局はこれまでに集めた公式文書などを有効に使って誤りを正すべきである。
米下院外交委員会では、慰安婦問題をナチス・ドイツが行ったホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と同列に論じる非難の声も上がったといわれる。南京事件などをめぐり、これまでも米国の州議会などでしばしば繰り返されてきた誤解である。
米国でベストセラーになった中国系米国人、アイリス・チャン氏の著書『レイプ・オブ南京-第二次大戦の忘れられたホロコースト』の影響がいまだに残っているようだ。
4月末の日米首脳会談で、安倍晋三首相は「慰安婦の方々が非常に困難な状況の中、辛酸をなめられたことに対し、人間として首相として心から同情している」と述べた。ブッシュ大統領もこれを評価した。最近、外務省が米国で実施した対日世論調査でも、日本を「信頼できる」と答えた一般人が74%と過去最高を記録した。
日米同盟を一層揺るぎないものにするためにも、歴史問題で正しい事実を示し、誤解を解く粘り強い外交努力が必要である。
(2007/06/28 05:03)
慰安婦決議 米議会の「誤解」の根元を絶て(6月28日付・読売社説)
いわゆる従軍慰安婦をめぐる対日決議案が米下院外交委員会で採択された。全くの事実誤認に基づく決議である。
日本政府は、将来に禍根を残さないよう、米側の誤解をときほぐし、当面、本会議での採択阻止に努めなければならない。
決議案は日本政府に対し、「日本の軍隊が若い女性を強制的に性的奴隷化」したことへの歴史的責任を認め、謝罪せよと言う。「慰安婦制度は20世紀最大の人身売買事案の一つ」と表現している。
事実をきちんと確かめることもせず、低水準のレトリックに終始した決議案だ。米議会人の見識を疑わせる。
安倍首相は4月、米大統領や議会首脳らとの会談で、元慰安婦への「心からの同情」と「申し訳ない思い」を表明した。「20世紀は人権侵害の多い世紀で、日本も無関係でなかった」とも述べた。
だが、こうした首相の発言も、決議案の採択見送りにつながらなかった。
米議会で採択される数多くの決議の一つにすぎない。法的な拘束力もない。従って、重く受け止める必要はない、という指摘もある。
これは間違っている。反論することを控えれば、この誤った「歴史」を独り歩きさせるだけだろう。
戦前、親やブローカーの手で、自らの意思に反して、慰安婦にさせられた女性は多数いた。しかし、これと、日本軍による、いわゆる「強制連行」とは、明らかに意味が違う。
「軍や官憲による強制連行」を直接示す資料は、これまでの調査で何も見つかっていない。政府は、今年3月の答弁書でも、この点を明確にしている。
一体、対日決議案は、何を論拠にしているのか。大きな拠(よ)り所とされているのが、1993年に出された河野官房長官談話だ。そこには「官憲等が直接加担した」などと、「強制連行」があったと誤って受け止められる記述がある。
当時、慰安婦問題での韓国側の圧力をかわすために考えられた政治的文言が、その後、誤解を広げた根元にある。
安倍首相は、「河野談話」を継承すると言う。外交的配慮からだろうが、その立場をとる限り、「強制連行」という誤解は消えない。談話に誤りがあるなら、見直しを躊躇(ちゅうちょ)するべきではない。
麻生外相は3月、決議案をめぐる動きについて、「日米を離間させる工作」と指摘した。背後で、中国・韓国系の反日団体などが影響力をふるっている。
このままでは、謝罪要求が繰り返されることになりかねない。筋道を立てて歴史の事実を明らかにしていくべきだ。
(2007年6月28日1時46分 読売新聞)
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朝日・東京・毎日に対しては、いちいち事実誤認について指摘しませんが、アメリカの誤解を正そうともせず、アメリカのいうことを受け入れよというのは、あまりにムチャクチャな議論。ペンは剣よりも強しと思うのであれば、いまこそ日本の国益のために戦うのが大新聞の務めでありましょう。
その意味で、日本国民は読売が指摘しているように、この決議の裏に中国・韓国の思惑があることを承知しておかなければなりません。ただ謝ればそれですむという発想は国際外交にはないのですから。
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