高倉健さんの『駅STATION』(1980)など映画・TVドラマの脚本を書いた倉本聡氏の追悼コメントです。
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高倉健さん死去 倉本聰さん「強い男、貫いた最後のスター」(産経新聞) - goo ニュース
2014年11月18日(火)20:23
まさか健さんが亡くなるとは思わなかったので、本当に驚いています。僕みたいに不摂生しているのが生き延びて、あんなに健康に留意していた人が、こんなに早く亡くなってしまうなんて。
とにかく無口な方で、プライベートなことはよそでしゃべってほしくないという感じでした。普段はユーモアのある人なのですが、そのことを表で公言するのはためらいましたね。ついそういうことをしゃべってしまうと、以後のおつきあいを拒否されるような、そんな印象でした。
僕が脚本を書いた作品は、テレビドラマの「あにき」(昭和52年)で初めて出ていただきました。健さんから書いてほしいと依頼され、本読みで毎回、顔を合わせましたが、とにかく準備段階からすごいんですよ。ご自分の衣装などもアメリカやヨーロッパで自ら買い込んでくる。
その後、健さんが僕の住んでいる北海道の富良野に来られて、「映画をやりませんか」と言ってきた。健さんだったらこういうのがいいんじゃないか、などと幾晩か話をして決めた作品が、「冬の華」(53年)です。
健さんとは、話をしていると5分か10分、間(ま)ができてしまうことがしょっちゅうある。それに慣れるのが大変でした。あんまり黙ってしまうので、気を 悪くしたんじゃないかと思ってつい何かしゃべろうとするのですが、ご本人は5分前に交わした会話をずっと考え込んでいるんです。ものすごく慎重に考えて話 をする人でした。九州男児ですが、お父さんから、男は一生で二言、三言、しゃべればいいんだ、と教育を受けていたらしい。本当にそういう感じでした。
「駅 STATION」(56年)のときは、とても印象深い思い出があります。健さんからはヨーロッパのおみやげなどいろんなものを頂戴したのですが、あ の人はお返しを拒否するんです。あげることは好きでも、もらうことは嫌いと いう人でした。何とかお返しできないかと考え、彼の誕生日に「駅」の台本にリボ ンをつけて差し上げた。「読ませていただきます」と感激してくれて、何日か後に「ぜひやりましょう」と言ってくれた。富良野の小さな小屋の暖炉の前で、何 時間もじっくり会話を交わした記憶があります。
あれだけ本気に映画に向かわれる方は、そうはいないと思います。1本の作品に向き合ったら、それ以外は何もしない。かけ持ちなんてしないで、何年かに1本ですからね。
最後のスターですよね。今はマスコミがみんな私生活を暴いてしまいますが、彼はそれは絶対に嫌だったから、私生活に関しては徹底して秘めていた。あそこまで秘めている方は、ほかには原節子さんくらいでしょう。
それに、もうお年なんだから老人の役をやりませんかと話しても、絶対に受けなかった。断固として老人役は嫌だという態度を最後まで貫いた。強い男のイメージを崩したくなかったんでしょうね。そのままお墓に持っていってしまいました。(談)
■倉本聰(くらもと・そう) 昭和10年、東京都出身。79歳。東京大学文学部卒。ニッポン放送を経て、脚本家として独立。52年、北海道・富良野に移住。代表作に「北の国から」「前略おふくろ様」などがある。
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倉本氏は健さんに次の4本の脚本を書いています。
あにき DVD-BOX | |
1977:TV連続ドラマ | |
キングレコード |
冬の華 [DVD] | |
1978 | |
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) |
駅 STATION【Blu-ray】 | |
1981 | |
東宝 |
海へ-See You- [東宝DVDシネマファンクラブ] | |
1988 | |
東宝 |
一般的評価の高い順からいえば、『駅 STATION』、『冬の華』、『あにき』、そしてずっと離れて『海へ See You』となるのだと思います。
貧乏英語塾長も、大きな異論はありません。しかし、『海へ See You』も、パリ・ダカール・ラリーに参加するレーサーではなく、そのレーサーを陰で助ける男を健さんが演じる珍しい作品です。健さんも渋くてカッコいいし、個人的には嫌いになれません。しかも、共演している桜田淳子がキュートなんです。
ともあれ、健さんの魅力を知りたければ、最低でも『駅 STATION』と『冬の華』は必見でしょう(塾長、何度見たか、数え切れません)。
倉本氏が健さんに言及しているエッセイ集を2冊紹介しておきます。
聞き書き 倉本聰 ドラマ人生 | |
クリエーター情報なし | |
北海道新聞社 |
愚者の旅―わがドラマ放浪 | |
倉本 聰 | |
理論社 |
倉本氏が健さんを原節子さんになぞらえているのには、わが意を得たりの気持ちでした。静かに去っていかれた健さん、見事というしかありません。合掌。
観た瞬間、健さんに恋をしました。
私の初恋の人が亡くなり、涙にくれています。