忍之閻魔帳

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映画「X エックス」3部作の第1作目は、続く「Pearl パール」への導線として完璧

2023年07月07日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「X エックス」3部作の第1作目は、続く「Pearl パール」への導線として完璧



1970年代のテキサスを舞台に、タイ・ウェスト監督が贈る3部作構成のホラー第1弾。
AV撮影のために田舎の農場を訪れた男女6人が殺人鬼に襲われる
スラッシャームービーのお手本のような展開を、往年の名作へのオマージュを盛り込みながら描く。
主演は「ニンフォマニアック Vol.2」「サスペリア」のミア・ゴス。
共演にジェナ・オルテガ、マーティン・ヘンダーソン、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ。
私の大好きなA24制作でもあり、コロナ以前ならば公開初日に劇場に駆け込んでいたような
好みの作品なのだが結局見逃したまま一年が経ち、
第2弾の「Pearl パール」が本日(2023年7月7日)公開になってしまった。
仕方ないどこかでレンタルでもするかとあちこちのサブスクをチェックしていると
なんとAmazonプライムビデオでは見放題配信中なのであった。
3部作構成の続編が公開される場合、予習復習できるかどうかはかなり動員にも影響があるはずなので
早々と見放題を許可してくれた配給元の英断に感謝したい。


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事件は1979年に発生する。
1974年に「悪魔のいけにえ」、1977年に「サスペリア」、1978年に「ゾンビ」、1980年に「13日の金曜日」と
花盛りとも言える1970〜80年代の名作ホラー群が当時の若者に与えた影響は大きい。
(私が大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」の洗礼を受けたのも1977年だった)
「悪魔のいけにえ」が始まったのかと思うほどコンパチな冒頭の車中シーンから
まんま「シャイニング」なカットまで、映像面でのオマージュも相当な数だが
当時の世相を反映した台詞もたくさん出てきて、目にも耳にも懐かしい古典ホラーの佇い。

PCもDVDもアダルトコンテンツが初期の普及を牽引したように
本作でもストーリー性のあるアダルト映画で存在感を示そうとする若者たち。
時に道を踏み外す(身体を合わせる相手をパートナーにこだわらない)こともあれど
快楽の追求に素直で奔放な彼らを少し遠くから見つめている老夫婦。
心臓を悪くし、もうかつてのように妻を抱くことのできなくなった夫と
まだまだ愛されたいと願う妻の行き場のない欲望との温度差は広がるばかり。
若さを武器に生(性)を謳歌する若者への羨望は、いつしか嫉妬に変わり嫉妬は憎悪へと移行する。



事件の成り行きだけを記録としてまとめれば、本作はいわゆるシリアルキラーものであり
凶行に及ぶ老婆パールの形相はジェイソンからエスターまで
ホラー映画の歴史で数多登場した名物キャラクターと比較しても遜色ないインパクトを持っている。
しかし、私はこのパールの姿を単なる『キ印婆さん』として面白がることが出来なかった。
それは、若者に嫉妬し、やり場のない疼きに耐えながらも
求める相手を夫以外に向けなかった純粋さが根底にあるからかも知れない。

もう随分と前の話だが、60代から70代ぐらいまでの女性に囲まれて食事をする機会があった。
私以外に男性がいなかったということもあるのだろうが、話題に上がるネタのほとんどは色恋についてで
全国を旅をする一座の花形に惚れ込んで、給料を全てつぎ込んで追いかけている話、
同じ飲食店で働く一回り以上年下の若い板前と不倫関係に落ちた話など
その場にいたメンバーが次々とコイバナに花を咲かせていたとき
一番物静かで一番の年長者だった70代後半の女性が
「私は夫しか知らないからそういった話はないの。でも先週も夫としたわ」と破壊力抜群の爆弾ネタを投下し、
メンバー全員が「ええええええ!羨ましい!」と叫びにも近い声をあげたのを覚えている。
日本人は特にその傾向が強いように思うが、年を重ねるとパートナーを求めることが
「ありえないこと」になってしまう。しかしパールは違う。
心臓のことは心配だが、それでも叶うのであればもう一度夫と...と願っている。
そして本作は、パールの願望や老夫婦の行為を、おそらくは意図的に「醜いもの」として描いている。
爺さんと婆さんのセックスシーンなんてそれだけでホラーだろ?と言わんばかりの演出をしているが
不思議なことに私はこのシーンを、なんだか少し感動的な気持ちすら抱きながら見てしまった。
おそらく監督の狙いとは受け止め方が違っていただろう。



若い女性を羨み妬むあまりに武器を手にとったパールと、パールのようになりたくない若い女性マキシーン。
パールが「彼女だけは特別」と語ったマキシーンは、セクシャリティを売りにする仕事に就いている
薬物使用の常習者という、世間的には「堕ちた生活を送る女」なのだが
本人はそういった声を聞いてか聞かずか「私はセックスシンボルだ、私は素晴らしい」と鏡に向かって言い聞かせている。
マキシーンがパールを忌み嫌うのは、このままの人生が続けば自分の行く先はパールだと悟っての
拒否反応だったのかも知れない。そしてパールは、マキシーンの中に昔の自分を見ているのだろう。
敵対しながらどこかで通じてしまっている二人の結末は予想通りではあったが、やはり少し哀しかった。

唯一の難点は2時間弱の尺で前半の1時間はほぼ何も起こらないこと。
これはラース・フォン・トリアーの「ドッグ・ヴィル」あたりを意識した
スローペースな種撒きと私は解釈したが、序盤からテンポ良く絶叫が入る
近代ホラー映画を期待していると、ちょっと退屈に感じてしまうかも知れない。
ただ、この序盤があってこその後半なので、オマージュを見つけるなど楽しみを見出しつつ
途中でリタイアせず最後までご覧いただきたい。



そして、本日より公開の「Pearl パール」は、「X エックス」で若者達を血祭りにあげた
殺人老婆パールの若かりし頃が描かれる。監督・脚本はタイ・ウェストが続投。



3部作のトリを飾る作品のタイトルは「Maxxxine マキシーン」で、やはり彼女が主役になるようだ。
出演はケヴィン・ベーコン、エリザベス・デビッキ、リリー・コリンズ、ミシェル・モナハンなどトリに相応しいキャスティング。
時系列では「X エックス」が1979年、「Pearl パール」は1918年、
「Maxxxine マキシーン」は「X エックス」の6年後、1985年のロサンゼルスになっている。
70年近くにも及ぶ壮大な物語は、どんな結末を迎えるのだろう。
2024年5月に海外版の予告編が公開された。


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配信中■Amazonプライムビデオ:タイ・ウェスト 関連作品一覧
配信中■Amazonプライムビデオ:スラッシャー映画 関連作品一覧

2024年7月現在、「X エックス」はAmazonプライムビデオ、U-NEXT、Huluで、
続編の「Pearl パール」もAmazonプライムビデオで見放題配信中。




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