一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

598兆円の利益剰余金は来年春闘に追い風、トランプ関税に脆弱な自動車の収益構造

2024-12-03 16:23:21 | 経済
 財務省が2日に発表した2024年7-9月期の法人企業統計では、2つの注目すべき点があった。1つは利益剰余金が598兆3624億円と前期比プラス5.3%と10兆2403億円も積み上がったことだ。来年の春闘に向けて少なくとも大企業は賃上げ原資に不安があるという状況ではないと指摘したい。
 2つ目は自動車などの輸送用機械の経常利益が前年同期比マイナス16.8%と大きく落ち込み、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益が7四半期ぶりにマイナスとなったことに大きく影響したことだ。トランプ次期米大統領が公約通りに10-20%の関税を日本からの輸出品にかけてきた場合、自動車の落ち込みが大きくなって全産業ベースの経常利益が大幅なマイナスになる可能性を示唆する結果と言っていいだろう。石破茂政権にとって、今回の法人企業統計の結果は先々の政策展開に重大な影響を与えると指摘したい。
 
 
 <名目GDPに匹敵する利益剰余金の規模、潤沢な賃上げ原資>
 
 多くのメディアはほとんど注目しなかったが、今年7-9月期の利益剰余金は前期比で10兆円超も積み上がり、総額は日本の名目国内総生産(GDP)に匹敵する規模に膨張している(今年7-月期の名目GDPは610.9兆円)。
 国内の一部のエコノミストは、来年に世界経済が減速するなら今年並みの賃上げは難しいと主張しているが、利益剰余金の積み上がりを見る限り、少なくとも大企業に関しては支払い余力が潤沢にあると指摘したい。
 さらに人手不足の状況は深刻さを増すばかりで、特に先端技術分野における人材不足は一段と厳しくなっている。この状況が継続する限り、来年の春闘における賃上げに関し、大企業の賃上げ率は今年並みに高くなる公算が大きいと予想する。
 
 <輸送用機械は大幅減益、トランプ関税前に早くも脆弱さ露呈>
 
 一方、企業の収益状況はトランプ関税が実施される前から、競争の波にさらされて落ち込んでいる。全産業の経常利益は前年同期比マイナス3.3%の23兆0123億円にとどまったが、非製造業が同プラス4.6%だったのに対し、製造業が同マイナス15.1%となって足を引っ張った。
 特に輸送用機械は同マイナス16.8%と大幅に悪化した。売上高が同プラス1.8%とプラス圏を維持したにもかかわらず大幅減益となったということは、採算がかなり悪化したことを意味する。
 一部の自動車メーカーが中国や北米で不振だったことに象徴されるように、競争力に陰りが出ていることは否定できないだろう。
 
 <トランプ関税実施、自動車株を直撃へ>
 
 筆者が懸念するのは、トランプ氏が関税を公約通りにかけてきた場合、日本の稼ぎ頭である自動車への打撃が大きくなり、日本の産業全体でも大幅な減益に直面する可能性が、今回の法人企業統計の結果で見えてきたことだ。
 少なくともマーケットは、来年1月20日の大統領就任時に実行がうわさされている特定国への関税引き上げ実施のニュースに接した場合、自動車を中心にした輸出系の日本企業の株価下落で反応するだろう。
 
 
 <石破政権、トランプ関税に無策なら来年の賃上げにも打撃>
 
 石破政権にとって、政策の優先順位が高い来年の賃上げ実行に向けて利益剰余金の膨張は「よいニュース」と言えるだろう。
 しかし、関税の引き上げが収益を圧迫すると自動車メーカーが主張して賃上げ率の圧縮に動いた場合、春闘全体の賃上げに対するパワーが減衰するのは避けられない。これは石破政権にとって由々しき事態と言えるのではないか。
 とすれば、トランプ関税と国内自動車メーカーの打撃に関して先手を打って、水面下で今から交渉カードの作成に取り組むべきだ。
 国内では、2025年度予算案の編成と可決に向けた国民民主党との協議という「政治的駆け引き」が石破政権を待ち受けているが、本当の難題はトランプ政権との関税をめぐる「ディール」だろう。
 対応を間違えれば、石破政権が立ち行かなくなるリスクも浮上すると指摘したい。
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