一歩先の経済展望

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ホンダと日産統合案の背中押したトランプ関税、成長モデルなければ「弱者連合」に

2024-12-18 12:40:30 | 経済

 ホンダと日産自動車が経営統合する協議に入ると18日付日本経済新聞朝刊が先行報道し、内外の報道機関も同様の記事で追随した。日経は台湾の電機大手・鴻海精密工業が日産への経営に参画しようとしていたのを防ぐために、ホンダと日産が先手を打ったとも伝えている。だが、両社の経営統合への動きを背中から押したのは、トランプ次期米大統領の掲げる高関税政策だったと筆者は推理する。

 大統領就任とほぼ同時に実施が予定される対メキシコの25%関税によって、ホンダと日産は合計で年間39万台の対米輸出がストップする可能性があり、これまでの「協業路線」では共倒れになるリスクが高まると判断した結果と推論する。しかし、両社は電気自動車(EⅤ)開発戦略や対中ビジネスでともに手痛い打撃を受けており、筆者の目からは「弱者連合」に映る。何を成長戦略の中核と位置づけるのか、経営目標がはっきりしないようなら試練が待ち構えているだろう。18日の東京市場でホンダ株が前日比3%超の下落となっているのも、マーケットが早くもそうした懸念を示した結果と言えるだろう。

 

 <急速に悪化していた日産の収益構造>

 日経などの報道によると、両社は持ち株会社を設立して両社はその傘下に入る。多くの報道では将来的に三菱自動車が統合された会社に合流することも視野に入っていると指摘されている。

 2023年の世界自動車販売は、ホンダが398万台、日産が337万台で合計735万台という規模は、トヨタグループの1123万台、フォルクスワーゲン・グループの923万台に次ぐ世界3位となる。

 だが、規模の大きさでこれからの世界販売における競争を勝ち抜けるかというと、相当に大きな障害が待ち受けている。

 特に収益悪化が目立つ日産は、「売れる車が投入されない」という声が出るほど収益構造が急変していた。2025年3月期第2四半期(2024年4-9月期)の決算で、売上高は前年同期比マイナス1.3%の5兆9842億円、営業利益が同マイナス90.2%の329億円、親会社株主に帰属する中間純利益(当期純利益)が同マイナス93.5%の192億円だった。

 

 <トランプの対メキシコ25%関税、25万台強の日産と・ホンダの対米輸出直撃>

 このため9000人の従業員削減と2割の生産能力削減が打ち出されたが、そこに「降ってわいた」ように登場したのが、トランプ次期米大統領による対メキシコの25%関税実施という計画だった。

 メキシコでは日本車メーカーで最大の生産能力を持ち、2023年には25万4000台を米国に輸出していた。業界筋によると、25%の関税がかかると販売が実質的にストップするという。日産にとっては「危急存亡」と言っていい事態だろう。

 トランプ次期大統領は、西側の同盟国も含めて10-20%の関税を課す計画を示しており、その発動時期は不明だが、日本に関しては工業製品での主なターゲットは自動車だろうと見らている。

 

 <今年3月から両社の協業検討スタート>

 ホンダと日産は今年3月、EⅤ化に向けた包括的な協業について検討を開始。8月には車載OSなどの開発やEⅤでの部品共通化で合意していた。ただ、一部の業界筋は経営統合とはかなり距離があるとみていた。

 また、日産の財務体質が急速に悪化している点をホンダが懸念しているとの声もあった。ブルームバーグによると、日産とグループ会社は2026年に総額56億ドル(約8700億円)近くの社債が償還を迎える。足元で同社のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と同社の社債スプレッド(上乗せ金)は、水準が切り上がっていた。 

 

 <足元で進んだ中国ビジネスの悪化、トランプ関税加われば「共倒れ」の危機も>

 だが、トランプ関税の登場は、両社の経営統合に向けた「交渉時間」を圧縮させる機能を示したと筆者は分析する。何も対策を取らなければ、日産だけでなくホンダも大きな打撃を受け、両社が共倒れになるという「危機シナリオ」が浮上し、統合へのかじを大きく切る動機になったのではないかと予想する。

 特に両社は中国ビジネスで事業の失敗に直面するという共通の痛手があり、そこでは統合のメリットを手にできるという思惑もあったと想定する。ホンダの今年1-10月の中国での累計販売は、前年同期比マイナス31%の66万3626台だった。日産も同じ期間の販売台数が前年同期比マイナス10%の55万8168台に落ち込んでいる。

 財務省が18日に発表した11月貿易統計によると、日本から中国への自動車輸出は数量ベースで前年比マイナス34.4%の4万1997台、金額ベースでマイナス33.9%の1453億円だった。マクロベースでみても対中自動車輸出の不振が鮮明であり、両社にとって中国ビジネスの立て直しは喫緊の課題となっている。

 

 <トランプ氏のEV購入補助打ち切り、ホンダに大打撃>

 加えてホンダには、トランプ氏がEV購入補助を打ち切る方針を打ち出しているという逆風に直面している。ロイターは16日、トランプ次期米大統領の政権移行チームが、EVや充電施設への支援を打ち切ることなどを勧告していると伝えた。

 一方、ホンダはオハイオ州にある主力工場で、ガソリン車の生産からEV生産への転換を推し進めており、25年からEV生産が開始される。この巨額の設備投資が「無駄」になるリスクが急浮上している。

 このようにホンダをめぐる環境は激変してきており、従来の日産とのゆっくりしたペースでの協業では、時間との戦いに敗れるという危機感が働いた、と筆者は予想する。

 

 <統合後の成長戦略は何か、明示なければ市場の洗礼>

 とはいえ、統合後の新会社の成長を促すコアビジネスに何を据えるのか、はっきりした「回答」を示さないとマーケットは統合に対して冷淡に対応するだろう。特にトランプ氏の率いる次期政権がEVに厳しい対応を取ることが予想される中、米国市場でシェアを上げるために何をするのかをはっきりさせないと、市場から「弱者連合」のレッテルを張られることになるのではないか。

 日産の事実上の救済ではない、ということをどのように打ち出していくのかが、今後の両社の命運を左右する。

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