12月の日米金融政策イベントに対する市場の織り込み度合いの変化が、151円台という足元でのドル高・円安の水準を形成している。市場では米インフレの再燃懸念が強まる気配を見せ、来年の利下げ織り込みが現状から一段と大幅になる環境とはなっていないため、ドル高・円安に傾きやすい地合いとなっている。
さらに日銀利上げに対するマーケットの織り込み度合いがこのところ急低下しており、12月に金融政策が維持されて直後の会見で植田和男総裁が今後の利上げに関してあいまいな発言をすれば、ドル/円が155円程度までドル高・円安方向に振れるとの声も広がっている。日米金融政策イベントまでに市場の織り込みがどのように変化するのか、11日の11月米消費者物価指数(CPI)や13日の12月日銀短観の結果などに注目が集まりそうだ。
<再燃する米インフレ懸念、来年の米利下げペースに影響>
12月17-18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げに関し、市場の織り込みは21.5ベーシスポイント(bp)と86%程度に達している。市場は12月の25bpの利下げをほぼ、織り込んだと言っていいだろう。
ただ、足元のマーケットでは米インフレ懸念が高まる兆しを見せ、9日のNY市場で10年米国債利回り(長期金利)は前日比4.2bp上昇の4.195%に水準を切り上げた。9日の公表されたニューヨーク連銀の11月消費者調査で、1年後の予想インフレ率が3%に上昇したことが材料視された。
米アトランタ地区連銀が試算している今年第4四半期の国内総生産(GDP NOW)はプラス3.3%と高水準で、強い米景気が物価を押し上げるとの見方が急速に広がりつつある。
ドル/円の水準を大きく左右する2025年の米連邦準備理事会(FRB)の利下げに関する市場の見方は、25bpの利下げ換算で約2.5回分が織り込まれている。12月のFOMCで公表されるドットチャート(メンバーが予想する政策金利の水準)で市場織り込みと同程度の予想が示されても、足元からさらにドル安・円高に振れる材料と市場が認識することはない、と筆者は予想する。
<大幅に低下した日銀の12月利上げ織り込み、注目される植田総裁会見>
一方、12月の日銀金融政策決定会合で利上げする可能性について、市場の織り込みは足元で急低下している。日本経済新聞の植田総裁インタビューの記事が掲載された直後は17bp(68%)まで織り込まれていたが、今月4日の時事通信の記事で、日銀内では「拙速な利上げは避けるべきだとの見方が、ここにきて広がっている」と報道されて以降、織り込み度合いは急速に低下。10日の市場では6.5bpと26%まで後退した。
筆者は、日銀利上げ織り込みの大幅な後退が、足元におけるドル/円の151円台への上昇に大きな影響を与えていると考える。
今のところ、市場は来年1月の利上げについて17bp(68%)、3月に22bp(88%)という織り込み度合いを示している。
こうした中で、19日の会見で植田総裁が1月利上げの可能性について、あいまいな発言をした場合、市場が1月利上げの可能性も低下したと受け止めれば、織り込み度合いの曲線が手前でガクンと下がる可能性が高まる。
米利下げペースがテンポアップする要因が短期的に見当たらない中、日銀利上げの織り込みが短期的に急低下すれば、外為市場では素直にドル買い・円売りが加速し、155円方向に円安が急進展するリスクが高まると予想する。
<市場が注視する11月米CPI、12月日銀短観にも関心>
いずれにしても日米の金融政策イベントまでの市場の織り込み度合いの変化が、ドル/円の方向性を大きく左右することになる。
1つ目の注目材料は11月米CPIだ。市場予想は前年比プラス2.7%だが、強めの結果が出れば上記で示したように25年の利下げペースの織り込み幅が小さくなり、ドル買い・円売りの材料になる可能性がある。
2つ目の材料は日銀短観だ。日銀の中村豊明審議委員が6日の広島市での会見で、注目する指標の1つとして12月日銀短観を挙げて以降、市場では12月利上げの可能性との関連で日銀短観に注目する見方が増えつつある。
<ワイルドカードとして意識すべきウォン急落リスク、日本の補正予算採決の行方も>
筆者はこの2つのデータとは別に、韓国の政情不安に起因した韓国ウォンの動向や日本の2024年度補正予算案の採決の動向にも注意を払うべきだと考えている。
韓国ウォンがこの先、一段と急落して「通貨危機」の様相を示すようなら日本政府・日銀としても何らかの対応を迫られる可能性があり、その際は日銀の金融政策判断にも影響が出る可能性があるからだ。
また、いわゆる「103万円の壁」の引き上げをめぐり、自民、公明の両党と国民民主党との協議が暗礁に乗り上げ、週内(13日)の衆院での補正予算案採決が先送りされ、補正予算案が衆院で否決される可能性が出てきた場合には、日本でも「政情不安」が取りざたされかねず、そのケースに直面するようなら日銀の「総合判断」の結果にも影響を及ぼす可能性がある、と筆者は予想する。
いずれにしても、日米金融政策の変更に関する市場の織り込み度合いは、ドル/円の動向に大きな影響を与えることになる。