一歩先の経済展望

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日米金融イベント、対照的な市場の織り込み 注視必要な韓国ウォン急落の影響

2024-12-05 14:41:47 | 経済

 日米の金融市場で、12月の中銀イベントに対する市場の織り込みが対照的な動きとなっている。米国では12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ織り込みが78%まで上昇したのに対し、日銀の利上げに対する織り込みは一時、32%まで低下した。

 韓国の尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣布後に解除し、弾劾訴追案が国会に上程される混乱の中、韓国ウォンは4日に1ドル=1440ウォン台と約2年ぶりのウォン安水準に下落した。一部のヘッジファンドは利上げ観測のある円を買ってウォンを売る取引を大規模に仕掛けようとしたが、日銀利上げ観測の後退でこの動きはいったん小休止している。日米韓をめぐる通貨の動きは、朝鮮半島の地政学的リスクの高まりを背景に複雑な様相を示している。

 

 <米の12月利下げ、78%まで織り込み進む>

 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は4日、ニューヨーク・タイムズ紙のイベントで、中立水準を探る上で「もう少し慎重になれる余裕がある」と語った。市場の一部では12月のFOMCでの利下げ見送りのサインと受けめられたが、市場の織り込みは19.5ベーシスポイント(bp)と78%まで進んだ。

 複数の市場関係者によると、12月に利下げした後で2025年の利下げペースを緩やかにすると予想した市場参加者が多かったという。25年の利下げペースは、12月に利下げしたと仮定した場合、2回分強を織り込んでいる。

 

 <時事通信の記事配信後、日銀の12月利上げの織り込みは32%に急低下>

 一方、日銀の利上げに関しては、2日の当欄で指摘したように、11月30日付日本経済新聞朝刊に掲載された植田和男日銀総裁のインタビューが12月利上げへの「地ならし」と受け止められ、一時、市場の12月利上げの織り込みは17bp(68%)まで上昇した。

 だが、時事通信が4日に配信した記事で、日銀内では「拙速な利上げは避けるべきだとの見方が、ここにきて広がっている」と指摘。「12月利上げに慎重なスタンスとなる可能性がありそうだ」との見通しを示した。この結果、12月利上げの織り込みは5日午前の段階で8bp(32%)まで急低下した。

 また、日銀内でハト派とみられている中村豊明審議委員が5日午後、広島市内での記者会見で、12月の金融政策決定会合で利上げするかどうかは13日に発表される日銀短観などのデータをよく見た上で判断したいと話し「利上げに反対しているわけではない」と述べた。円債先物市場は反応したものの、金利スワップ市場の利上げ織り込みは、8bpから9bp(36%)に小幅上昇しただけだった。

 

 <非常戒厳めぐる韓国の大混乱、ヘッジファンドはウォン売り開始>

 この間、韓国で展開された「非常戒厳」の宣布をめぐる大きな混乱によって、韓国ウォンが急落する場面が発生。複数の市場関係者によると、ヘッジファンドが投機の「好機」とみて韓国ウォン売りを仕掛けてきたという。

 混乱は、3日夜の韓国の尹大統領による「非常戒厳」の宣布で始まった。戒厳司令官が行政と司法の全てを管轄し、違反者には逮捕令状なしに逮捕、拘禁、押収、捜索が可能になった。

 ところが、軍は国会に集まった190人の国会議員を戒厳令違反で逮捕せず、出席議員の全員で4日未明に戒厳解除要求決議案が可決され、尹大統領は4日午前4時半ごろに戒厳令の解除を表明した。

 その後は野党が大攻勢に出て、尹大統領の行為は「重大な内乱行為」と糾弾し、国会に尹大統領の弾劾訴追案が提出され、7日に採決されることになった。

 

 <ヘッジファンドの円買い・韓国ウォン売り、時事のニュース配信後に下火>

 こうした経緯の中で、一部の欧米系ヘッジファンドが韓国ウォン売りを大規模に仕掛けたという。中でも利上げ期待の高まっていた円を買って韓国ウォンを売る取引に脚光が集まった、と複数の市場関係者は指摘する。韓国ウォンは一時、1ドル=1440ウォン台と約2年ぶりのウォン安水準に急落した。

 だが、時事通信のニュースが英文にも翻訳されてマーケットに広がると、円買い/韓国ウォン売りの取引は急速に下火になったという。

 また、尹大統領の弾劾訴追案が国会で可決されるには、定数(300人)の3分の2(200人)以上の賛成が必要になるが、与党「国民の力」は訴追案に反対する方針を決めた。今の情勢では、与党議員の8人が造反すれば可決されるが、7人以下に抑制できれば否決される。

 5日のソウル外為市場では、弾劾訴追案の可決の可能性が低下しているとみて、1ドル=1410ウォン付近まで韓国ウォンが買い戻されているという。

 

 <韓国当局は「無制限」の流動性供給へ、ウォン買い介入なら効果削減も>

 韓国政局の大混乱を受けて、 韓国企画財政省は4日、「無制限」の流動性を金融市場に注入する用意があると表明した。

 ただ、韓国ウォンを買い支えようと外為市場でドル売り・韓国ウォン買いの介入を実施すると、韓国ウォンを市場から吸い上げることになり、一部のヘッジファンドはその「矛盾」を突いて、再び、ウォン売り攻勢をかける可能性も残っている。

 

 <韓国ウォン危機に発展するのか、日銀への影響の可能性も注視必要>

 弾劾訴追案が7日に可決される展開になった場合、 韓国ウォンが一段と下落して「韓国ウォン危機」に発展する危険性も現状ではゼロと断言できない。

 隣国・韓国の政局大混乱に起因した通貨安という市場の変動が、日銀の金融政策判断に影響を与えることになるのかどうか──。韓国政局と韓国ウォンの状況を世界の市場関係者の多くが注目することになりそうだ。

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