一歩先の経済展望

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石破少数内閣に3本の対野党パイプ、25年度予算案の成立へ試される構想力

2024-12-13 15:24:07 | 政治

 10月27日の衆院選で少数与党に転落した石破茂政権が12日、2024年度補正予算案の衆院通過を果たした。石破首相は最初の関門を通過した形だが、注目するべきは「103万円の壁」問題で協議した国民民主党だけでなく、日本維新の会や立憲民主党とも新たなパイプを造り、さらにハードルが高くなる第二の関門である2025年度予算案の成立に向け、政治環境が少しずつ変化してきたことだ。

 3本の政策協議ルートは、国民民主党とだけの1本のルートよりも政府・与党に選択の幅を与え、政治的に孤立して不信任案を提出されるリスクを抑える機能を持たせたことになる。この新たな動きの中心にいたのが森山裕・自民党幹事長と見られている。25年度予算案の成立に向けた道筋はまだ見えてこないものの、25年度税制改正大綱や予算案編成の着地に至るプロセスで、自民・公明両党と他の3党との距離感やその先の連携の有無が浮かび上がってくる可能性がある。

 

 <国民民主と合意、補正予算案が衆院通過 目立つ森山幹事長の存在感>

 今回の補正予算案の衆院通過までの過程をみると、3つの特異な政治的合意があった。1つ目は、「103万円の壁」の引き上げにかかる財源問題で与党と国民民主党との溝が深まり、国民民主党が補正予算案への反対の可能性をちらつかせる中、幹事長レベルで急転直下、合意文書を作成して国民民主党の補正予算案賛成を決めたことだ。

 「178万円を目指して」「暫定税率の廃止」「2025年からの実施」という文言を盛り込みつつ、前の2つには時期を盛り込まなかった「玉虫色の決着」は、森山幹事長の決断だったとされる。万が一、補正予算案が衆院で否決されれば重大な政局問題に発展したに違いなく、森山幹事長の政治的な駆け引きは水際だった巧妙さを見せた。

 

 <自民と立民に新たなパイプ、注目される森山氏と安住氏の人間関係>

 12日付読売新聞朝刊は、国民民主党を合意へと促したのは、自民党と立憲民主党との補正予算をめぐる妥協の動きだったと伝えた。これが2つ目の出来事だ。

 連立与党は立憲民主党の要求を飲む形で能登半島の復旧・復興支援のため、予備費から1000億円を充てる修正案を11日にまとめ、立憲民主党の安住淳・予算委員長は12日の補正予算案採決を決定。12日の補正予算案採決の段階では、この修正案に立憲民主党も賛成した。

 予算委では補正予算案の政府原案に与党と国民民主党、日本維新の会が賛成して可決され、本会議では修正案に一本化されて採決されたが、立憲民主党は緊急性の低い基金への支出が多いことなどを理由に反対した。補正予算案の審議が始まって修正されて可決されたのは初めてで、この点は立憲民主党も野党優位の国会の成果と評価している。

 ここでも森山氏と安住氏の国会対策委員会で形成された人脈が生かされたと国内メディアは報道している。自民党と立憲民主党との間に確かなパイプが形成されたことの証と言えるだろう。

 

 <維新も補正予算案に賛成、教育無償化で自公と協議会設置へ>

 3つ目は、日本維新の会が前原誠共同代表の下で、教育無償化をテーマに与党と政調会長レベルで協議会を設置することで合意し、日本維新の会も補正予算案に賛成したことだ。

 あまりの急展開のため、日本維新の会ではこの方針転換に反発する声が表面化するというハレーションまで発生した。

 25年度予算案の成立を目指す際に、教育の無償化をめぐって例えば高校の授業料無償化などに関し、一定の合意が与党と日本維新の会で形成されれば、予算編成の過程でその合意内容が盛り込まれるという展開もありえる。

 

 <本予算案成立へ、自民党にとって増えたカード>

 もし、25年度予算案をめぐって与党と日本維新の会の合意が先行すれば、国民民主党が高いボールを投げてきても妥協を強いられることがなくなるという道が開ける。 

 そのような可能性があることを内外に示すだけでも、国民民主党に対するけん制力が増すことにもつながるという計算が自民党に働いたとみることもできるだろう。

 

 <立民との調整、国会での修正協議が主戦場か>

 立憲民主党は予算案の国会提出前の事前協議のかたちでの合意形成方式を強く批判しているため、与党と同党との合意形成は、補正予算案と同様に国会での修正という形をとることになると予想される。

 仮に水面下での自民党と立憲民主党との間での折衝で、特定の予算項目での減額や増額で折り合いが付きそうになれば、大規模な予算案の修正が国会の場に姿を現す可能性もあると筆者は予想する。

 その場合の主要なプレーヤーは森山氏と安住氏になり、最終的な決断は石破首相と立憲民主党の野田佳彦代表が下す展開が予想される。ただ、本予算に賛成することは、事実上、与党の政治路線を認めることにもなるため、立憲民主党内で異論が噴出することも想定される。

 

 <予算案めぐる駆け引き、その後の展開につながる可能性>

 このように3本のパイプができたことは、石破内閣の選択肢の幅を広げることにつながるだけでなく、その先の政権の枠組み変更や政界の地殻変動に連動する大きなパワーに発展する可能性を秘めている。

 だが、3本のパイプが同時に目詰まりし、最終的に予算案が否決されるというリスクも相応に存在する。その場合は内閣総辞職というドラスティックな結末が待ち構えていることもありえる。

 同時に進行する政治資金規正法の再改正問題と合わせ、自民、公明両党と野党各党の「構想力」の真価も問われることになる。

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人手不足と経常減益計画、日銀短観が示す明暗交錯の未来

2024-12-13 12:00:14 | 経済

 日銀が13日に発表した12月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)ばかりに注目が集まり、内外メディアのヘッドラインもそこに集中するが、実は今回の短観の見どころはそこではない。人手不足の状況を判断する雇用人員判断と経常利益計画だ。前者は1980年代後半のバブル期の水準に接近するほど不足感が強く、来年の春闘での賃上げ率が今年並みになる可能性を高める要因となる一方、後者は昨年の12月短観のデータよりも弱く、前年比マイナスで着地する可能性を示唆している。

 来年1月20日に就任するトランプ次期米大統領の関税政策の全容が判明すれば、海外での製商品需給判断が悪化して経常利益計画やDIを下押しする懸念もあり、12月短観における大企業・製造業DIの小幅改善を素直に好感するのは楽観的に過ぎると指摘したい。

 

 <小売と宿泊・飲食サービスのDI悪化、消費変調の前兆か>

 市場が発表直後に反応する大企業・製造業DIはプラス14と9月の同13から1ポイント改善し、悪化を見込んでいた市場予想の同12を上回った。大企業・非製造業はプラス33と2期ぶりに小幅悪化した。

 これを業種別にみると、少し違った風景が見えてくる。9月との変化幅がマイナス15と最も悪化方向に振れたのが小売で、その次に宿泊・飲食サービスのマイナス13が続いた。モノとサービスの両面で個人消費の変調を示唆するデータではないかと筆者は懸念する。

 

 <深刻な人手不足、来年春闘の今年並み賃上げに好材料>

 一方、今後の日銀の利上げパスを予想する上で重要な来年の賃上げについて、重要な情報を提供するのが雇用人員判断だ。大企業・全産業でマイナス28、全規模・全産業でマイナス36と9月短観から横ばいながら、不足感の水準自体は1980年代後半のバブル期に迫るところまで来ており、成長の足を引っ張る供給制約の大きな要因として政府・日銀も認識しているもようだ。

 一部では、来年春卒業の新卒者をめぐる「奪い合い」が激化しているとも言われており、企業の欲しい優秀な人材の不足感は一段と深刻化しているとの声も産業界から漏れている。

 今回の短観のデータもそうした見方を裏付ける存在とも言え、今年並みの賃上げ幅を期待している政府・日銀にとっては「好材料」と評価できるだろう。

 

 <経常利益は減益計画に>

 だが、気になるデータもある。その1つが経常利益計画だ。2024年度の全規模・全産業では前年度比マイナス3.1%、修正率2.8%だった。前年12月短観の前年度比プラス4.1%、修正率6.8%と比較すると見劣りする。

 ここに出てきているトレンドで着地するなら、経常利益ベースで減益となり、今年並みの賃上げを実現する際に経営側から難色を示される理由の1つとして提起される可能性がある。

 ただ、財務省が発表している法人企業統計では、企業の利益剰余金は598兆円と過去最高を記録しており、賃上げ原資は潤沢に存在していると筆者は考える。

 

 <海外での製商品需給判断、供給過剰方向にシフト その先にあるトランプ関税のリスク>

 経常利益が減益計画になっている背景には、海外経済の動向に懸念が生じていることがあると指摘したい。12月短観における製造業の海外での製商品需給判断(需要超過ー供給超過)はマイナス12となり、9月から2ポイント供給超過方向にシフトした。中国や欧州などの景気減速の影響を受けたとみられるが、今後はさらに悪化する懸念がある。

 いわゆるトランプ関税の発動による輸出への新たな打撃の発生だ。特に1月20日の大統領就任と同時にメキシコからの輸入品に25%の関税がかかった場合、メキシコで生産して米国に輸出している日系メーカーの77万台は、輸出停止の危険性に直面する。

 海外での製商品需給判断が供給超過方向にシフトすれば、経常利益の着地点も大幅に悪化方向にずれ込み、いずれDIの悪化につながることになるだろう。

 

 今回の12月短観のデータは、上記の点以外では企業の設備投資や物価見通しが堅調で、日銀見通しに対してオントラック(想定通り)と指摘できる。

 だが、12月短観の調査時点ですでに経常利益が減益計画になっているというのは、企業経営者のセンサーが内外経済の先行きに何らかの「障害」を察知した結果と言えるだろう。手放しで楽観的な展望を語るのは「リスキー」と筆者は感じる。

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