中国は国内景気の刺激策を打ち出しているものの、一部の市場参加者が期待しているような効果が出ず、デフレ的な状況がじりじりと進行している。中国国家統計局が16日に発表した11月の小売売上高は前年比プラス3.0%と10月の同4.8%から伸び率が縮小。不動産開発投資は今年1-11月の累計で前年同期比マイナス10.4%と低迷していることが明らかになり、中国の10年債利回り(長期金利)は史上最低の1.71%まで低下した。30年債利回りは一時、1.955%まで下がり、日本国債の利回りを下回っている。
中国国債へのマネーの流入は、国内景気が沈滞していることを象徴的に示しており、バブル崩壊後にデフレ的な状況に直面した当時の日本と酷似してきた。中国は金融政策のスタンスを「適度に緩和的」と2008年のリーマンショック後と同水準まで緩和姿勢を強めることにしたが、外為市場で人民元が下落するリスクをはらみ、綱渡りのマクロ経済政策運営を強いられる。2025年を展望した場合、中国経済のデフレ的現象の強まりは、日本の外需を弱める要因となり、政策当局だけでなく民間企業も注視が必要になってきた。
<止まらない新築住宅価格の下落、買い替え促進策でEV販売は好調>
11月の中国小売売上高の中身を見ると、政府の買い替え促進策の効果が出て自動車は前年比プラス6.6%だったが、化粧品の同マイナス26.4%のほか宝飾品なども低迷した。
また、ロイターの試算によると、11月新築住宅価格は前月比マイナス0.1%と10月の同マイナス0.5%から下落幅が鈍化した。ただ、前年比ではマイナス5.7%と下落基調に大きな変化はない。
一方、11月の鉱工業生産は前年比プラス5.4%と10月の同5.3%から伸び率が小幅ながら増加した。EVが主体の「新エネルギー車」が同51.1%と好調だったことが目立った。
このように見ると、政府の買い替え促進策の効果が出ている分野では改善が見えるものの、不動産価格の下落を起点にした「資産デフレ」による消費の落ち込みは継続しているとみるのが妥当だろう。
<長期金利低下が示す地価下落への懸念>
実際、中国市場は債券市場へのマネー流入と利回りの大幅低下という現象で、中国内需の不振に警鐘を鳴らしている。
日本でもバブル崩壊の比較的初期の段階から長期金利が急低下し、長期金利の利回りがあっさりと2%を割り込んでいる。特に足元における30年債での日中の利回り逆転現象は、中国における不動産バブルの崩壊と地価下落のマイナスの影響が、金融市場にもしっかりと投影される段階になったと言えるだろう。
<中国の金融緩和と通貨安懸念>
ここで注意しなくてはならないのは、1997-98年ごろの日本は円高で、金融緩和を大幅に実施しても自国通貨安ー資金の海外流出というショック発生を回避できたということだ。
だが、1ドル=7.2人民元台というドル高・人民元安の水準にある今の中国では、金融緩和を継続した場合、人民元安が一段と進み、マネーの中国国外への逃避現象を加速させる可能性がある。中国の政策当局は、国内景気の刺激のための財政拡張・金融緩和を推し進めつつ、過度な人民元安を回避するという両にらみの政策スタンスを求められることになる。
<日本の対中ビジネスにも大きなマイナスの可能性>
日本にとっては、今年後半から目立ってきた対中輸出の不振と中国ビジネスの比重が高い企業の業績悪化という悪影響を一段と覚悟せざるを得ない。
米国のトランプ次期大統領が来年1月20日に就任し、対中関税をいつの段階でどの程度まで引き上げるのかは不明だが、中国経済の打撃の増幅という現象を通じて、日本経済にも波及してくることをあらかじめ予期しておく必要がある。
16日の中国国債利回りの大幅低下は、その前兆現象として警戒しながら見守るべき「サイン」とみるべきだ。