一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

進行する中国のデフレ的風景、手付かずの過剰住宅 来年の世界と日本経済に影響も

2024-12-09 14:13:53 | 経済

 中国で消費者物価指数(CPI)の低迷が続いている。11月のCPIは前年比プラス0.2%と小幅にとどまり、前月比はマイナス0.6%と今年9月から0.9%ポイントも下落した。背景には、16カ月連続で下がり続けている住宅価格の下落圧力が個人消費を抑圧している構図があると指摘したい。

 中国経済は弱い消費の下でデフレ的な色彩を強め、日本から中国への輸出数量も7カ月連続で前年を下回っており、中国ビジネスの割合の大きい日本企業の業績不振は2025年も継続しそうな状況だ。需要を喚起する大規模な財政出動を中国政府が繰り返しても、経済の逆回転の大本になっている不動産価格の下落を止めないと「ざるで水をすくう」ことになりかねない。

 

 <9月から0.9%ポイントも下落した中国CPI>

 中国国家統計局が9日に発表した11月CPIは、前年比プラス0.2%と10月の同0.3%から伸びが鈍化。市場予想の同0.5%を下回った。前月比ではマイナス0.6%となり、10月の同マイナス0.3%、9月の横ばいと合わせると、9月から0.9%ポイントもCPIが下落したことになる。

 11月の生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス2.5%と予想の同2.8%よりは下落幅が小さかったが下げ止まる気配を示していない。予想は2.8%下落だった。

 

 <住宅価格の下落続く、節約が消費不振に>

 このように中国の物価をめぐる状況は、デフレ色が足元で強まっていると指摘せざるを得ない。その背景にあるのは、住宅価格下落などによる個人の資産価格の目減りだ。ローンを組んで返済が終わっていない世帯には、返済額の実質的な増大が発生し、家計の節約を強いる。その結果、個人消費は抑制される方向に働く。

 CPIが前月比でマイナスを続けるのは、こうした消費の弱さによる供給過剰の実態が反映されているといえる。 

 中国国家統計局によると、10月の新築住宅価格は前年比マイナス5.9%となり、2015年以来最大の下げを記録。前年比の下落も16カ月連続となっている。

 

 <空き家が9000万戸の試算>

 住宅価格の下落に歯止めがかからなければ、自動車や家電製品に政府が優遇措置を講じてもプラス幅には限界が生じることになる。11月のCPIやPPIの低迷は、これまでに説明してきた筆者の推計が正しいことを示していると考える。

 住宅価格の下落が継続している大きな要因は、膨大な数の過剰住宅が存在していることにある。中国は空き家に関する公式統計を発表していないが、今年10月の米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、9000万戸超に達しているという。内訳は、3100万戸が未販売、5000─6000万戸が投機目的の購入により空き家状態、約2000万戸が未完成になっているという。

 中国政府は今年10月、10兆元(1兆3700億ドル)規模の地方政府の債務対策を発表したが、過剰住宅の「償却処分」に結びつかなければ、消費低迷を主因にした経済の停滞から抜け出せないだろう。

 

 <日本の対中輸出、数量ベースは7カ月連続の前年比マイナス>

 世界第2位の経済規模を誇る中国経済の混迷は、日本経済に大きな影を投げかけている。財務省の貿易統計によると、日本から中国向け輸出の数量ベースは、今年4月から10月まで7カ月連続で前年比マイナスが続いている。

 企業決算にも中国減速の影響が出て、3月期決算企業の中間決算で輸送用機器と鉄鋼の2業種が前年同期比で減益となった。

 また、中国ビジネスの比重が高い資生堂は、2024年12月期第3四半期の発表で、大幅な減益の要因として「想定以上の中国人の消費低下により減収幅拡大」という文言を説明資料に盛り込んでいる。

 

 <中国経済の低迷長期化も、当局は過剰住宅の処理に踏み切れるのか>

 2025年を展望する上で、中国経済の不振が長期化するようなら中国ビジネスの比重の高い企業には一段と逆風が吹くだろう。転機があるとすれば、中国政府が過剰住宅の処分を国費で実行する政策に踏み出す時だ。過剰住宅の存在が軽減されることになれば、住宅価格の下落に歯止めがかかり、消費が上向くというシナリオの実現性が高まる可能性が出てくる。

 しかし、それには巨額の財政資金が必要になり、中国の財政赤字が急増するという副作用を発生させることになる。これが人民元安につながれば、想定外の資金流出が起きるリスクも高まり、中国政府がこの政策実行に「逡巡」する理由になっているだろうと類推する。

 ただ、過剰住宅の処理に手を付けずに消費刺激策として、小出しの財政出動を繰り返せば、日本が経験した「失われた30年」を超える挫折の歴史を歩むかもしれない。

 中国政府が直面することになる大きな岐路は、世界経済にとっても決して「他人事」ではない試練になるリスクを高めていると指摘したい。

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