2025年の世界経済を展望する上で、ドル高・米株高・米金利上昇をもたらすいわゆる「トランプトレード」がどこまで継続するのかが大きなポイントになる。日本の政策当局や市場参加者にとってもドル高・円安がどこまで進展するのかという点は25年に最も注視すべき現象だが、大きな落とし穴が待ち構えている、という思惑もある。
米貿易赤字を拡大させるドル高を嫌っているトランプ次期米大統領が、ドル安誘導の世界的な合意を取り付けるのではないかとの見方が、次期政権の周辺から浮上しているためだ。1985年9月に突如として姿を現したドル高是正のため「プラザ合意」を念頭に置いたトランプ版の「マールアラーゴ合意」が本当に出来上がれば、急速なドル安・円高が現実になる可能性がある。だが、その副作用も大きく、一歩間違えればドル急落をきっかけに米株が大幅に下落し、世界の金融市場が動揺するリスクもある。
<ドル指数、年初から6.6%上昇>
23日のNY市場で、ドル指数は108.5と約2年ぶりの高水準まで上昇。24日の東京市場でも108.1台と年初から6.6%高い水準で推移している。ドル/円も157円台を回復。年末の薄商いの中で勢いが付けば160円台までの上昇もありうる展開となっている。
短期的には米連邦準備理事会(FRB)のタカ派傾斜と日銀のハト派スタンスが重なって、ドル/円はドル高・円安方向のバイアスがかかりやすくなっている。
<ささやかれるマールアラーゴ合意>
さらに来年1月20日に米大統領に就任するトランプ氏の政策が、大規模な減税と高水準の関税賦課という米経済拡大と物価の再上昇を招きかねない「政策ミックス」であるため、当面はドル高・株高・米長期金利上昇というトランプトレードが継続しそうだ、との見方が市場で多数派を形成している。
だが、永遠に続く市場現象はないという「鉄則」があるだけでなく、一部の市場関係者は「トランプ版プラザ合意」が25年のどこかで形成され、急速なドル安が起こるのではないかと予想している。
プラザ合意は1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルにニューヨークの先進5カ国(G5=日・米・英・独・仏)の蔵相と中央銀行総裁が秘かに集まって作成され、参加各国はドルに対して自国通貨を一律に10-12%ポイント切り上げ、そのために外為市場で協調介入を実施」するとされた。ドル/円は合意直前の240円台から1年後に150円台まで下落した。
来年はプラザ合意から40年目となるが、事情に詳しい関係者によると、トランプ次期政権のスタッフ周辺からは、プラザ合意を模した「マールアラーゴ合意」のアイデアが浮上しているという。
実際、米ニュースサイトのポリティコは今年4月に「トランプ前政権の元高官らが政権奪取後に導入するドル安誘導策を議論している」と報じている。
トランプ氏が米貿易赤字の削減を目指し、ドル安志向が強いということが背景にあるとみられている。
<トランプ版ドル安誘導、米株の大幅下落などショック誘発も>
しかし、世界の外国為替取引高は1日当たり平均で7兆5000億ドルに達しており、ドルの水準を経済のファンダメンタルズからかい離したところに誘導するのは「至難の技」という問題がまず、存在している。
さらにユーロ圏は景気悪化の兆候を見つつ、足元で欧州中銀(ECB)が利下げを実施中であり、対ドルでユーロを切り上げる介入に賛成しない可能性が高いという大きな「障害」がある。
また、ドルの価値安定を前提に海外から米株投資のマネーが流入している現状では、ドル切り下げがマネーの逆流を生み、高値圏で推移する米株の大幅下落を引き起こすパワーを生みかねない。
米株の下落幅が大きく、かつ急速に進めば、世界の金融・資本市場がリスクオフと判定して「ショック」を誘発する懸念も高まる。
<ドル高に悩む新興国、受け入れ余地も>
他方、ドル高の進行の反射的効果として自国通貨の急速な下落に悩んできた新興国は、トランプ氏のドル安誘導に賛意を示し、協調介入に参加するという見方も一部で出ている。
160円を突破し、170円も意識されるような大幅な円安圧力に直面していた場合、日本もドル安誘導に「乗る」余地はあると筆者は考える。政局混乱以降のウォン安に悩む韓国も同様の判断を下す可能性はあるだろう。
<注目されるトランプ氏の判断>
このように見ると、大きな副作用が想定されるトランプ版のプラザ合意は、従来の通貨マフィアの常識から見れば、採用困難な政策手段ということになると思われる。
しかし、トランプ氏が旧来の常識から外れた政策を遂行するのは、大幅な関税引き上げの例を挙げるまでもなく、トランプ氏の価値判断からみると「合理的」と考えるからだろう。
足元で見られるドル高が年明けに次第に加速し、どこかの段階でトランプ氏の荒療治が展開されるのかどうか──。関税の大幅な引き上げとともに最も注目するべき点だろう。