一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

日銀総裁会見、市場はハト派傾斜と受け止め 進む円安の先に何があるのか

2024-12-19 17:06:41 | 経済

 日銀の植田和男総裁が19日に行った会見で、現行の金融政策維持を決めた理由について、春闘に向けた情報やトランプ次期米政権の経済政策をめぐる不確実性が大きいことなどを挙げた。これに対してマーケットは植田日銀のハト派姿勢が強まったとみて、1月利上げの織り込みが66%から54%に低下。ドル/円は一時、157円台までドル高・円安が進んだ。

 対照的に米連邦公開市場委員会(FOMC)やパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見に対する評価は「想定以上のタカ派傾斜」だった。このため日銀総裁会見後の市場では、19日の欧米市場でドル高・円安が一段と進むのではないかの見方が浮上しており、特にNY市場での動向に関心が集まっている。

 

 <利上げ見送り、理由に挙げた春闘の動向と米経済政策の不確実性>

 この日の植田総裁の会見で、市場関係者の注目が集まったのは利上げを見送った理由だった。植田総裁は「最近の経済・物価に関する各種の見通しは概ね(日銀の)見通しに沿って推移している」と述べて「オントラック」の状況であることを認めつつ「賃金と物価の好循環を確認していくという視点から、来年の春季労使交渉に向けたモメンタムなど今後の賃金動向について、もう少し情報が必要と考えた」と述べた。

 さらに「米国をはじめとする海外経済の先行きも引き続き不透明であり、米国次期政権の経済政策をめぐる不確実性は大きい」とも指摘。これらを踏まえて政策の維持を決めたと説明した。

 

 <市場の利上げ織り込み、来年1月は66%から54%に低下 157円台まで進んだ円安>

 複数の市場関係者は、1)1月23、24日の次回会合までに春闘の流れが明確に判明する可能性は低い、2)トランプ政権の関税をはじめとする政策の不透明感は、次回会合までに晴れる可能性が極めて低い、3)現状で輸入物価の上昇は抑えられていると繰り返して155円程度の円安は容認したとの印象を与えた──と指摘し、日銀のハト派姿勢がより鮮明になったとの受け止め方を示した。

 実際、日銀の利上げに対する市場の織り込み度合いは、植田総裁の会見前に1月が16.5ベーシスポイント(bp)、3月が23bp(92%)だったが、会見終了後に1月が13.5bp(54%)、3月が20bp(80%)へとそれぞれ低下。ドル/円は157円台までドル高・円安が進んだ。

 植田総裁は会見で、春闘に関して賃上げのモメンタムを見たいと言ったのは、来年3月11日に発表される大企業の集中回答まで待つのではなく、それまでの間に得られた情報でも判断は可能との趣旨の発言をしたが、マーケットで生じた「ハト派」との印象を覆すことにはならなかった。

 

 <FRBのタカ派傾斜に反応した市場>

 円安が加速した背景には、日銀とは好対照とも言えるFRBの「タカ派」傾斜が市場を驚かし、日銀のハト派姿勢とFRBのタカ派姿勢が組み合わさって、ドル高・円安が進むとの市場心理を強めた点がある。

 市場にとってのサプライズは、1)パウエル議長が「ここからは新たな段階で、追加利下げに慎重となる」と述べたこと、2)25年の政策見通しで1人のメンバーが「据え置き」を予想して、利下げ停止の可能性を探る見方が市場で増えたこと、3)インフレ刺激的なトランプ次期政権の政策効果を見通しに織り込んでいないとパウエル議長が明らかにしたこと──だった。

 

 <植田総裁が言及した「もうワンノッチ」の材料>

 植田総裁はさらに、基調的物価上昇率の上昇が「極めてゆっくりである」と説明し、期待インフレ率の上昇もゆっくりであるため、利上げのペースを長い期間の中で適切に決めていこうとしているとも述べた。筆者は、この点も日銀のハト派イメージを強め、1月の利上げ織り込みを低下させたとみている。

 つまり、実質の政策金利が極めて大きい中で、経済や物価の見通しがオントラックであるなら、緩和度合いを着実に調整していく、という日銀のこれまでの説明に対し、マーケットが疑念を持った可能性があると指摘したい。

 植田総裁は、次の利上げに関して「もうワンノッチ」の材料が欲しいと述べたが、そのワンノッチの確証を得るために、かなりの時間を要しても問題ないとみている、と市場は認識したのではないか。

 

 <来年も政治の年、円安・物価上昇嫌う政府・与党から圧力も>

 植田総裁は輸入物価の前年比上昇率が抑制されていることを繰り返し説明したが、足元で進む円安が一定のタイムラグを伴って輸入物価を押し上げる可能性があると筆者は考える。利上げ材料を慎重に見極めている間に円安が急進展すれば、日銀をめぐる内外の情勢も急変するリスクがある。

 2025年夏には参院選やその前に東京都議選という政治イベントが控えるが、物価上昇が選挙にマイナスと政府・与党が受け止めれば、物価上昇の原因は円安であり、その進行を緩和するために「利上げをするべき」と日銀に圧力をかけてくる可能性も相応にあると筆者は予想する。

 慎重に構えていると、後々、利上げの幅が大きくなるというリスクも存在する。これからの日銀は、賃金と物価の前向きの循環が途切れないように目配りしつつ、円安という「副作用」が想定を超えないよう絶妙なバランスを求められると考える。

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来年の米利下げペース鈍化へ、高まる円安リスク 注目度上がる日銀総裁会見

2024-12-19 10:05:15 | 経済

 米連邦公開市場委員会(FOMC)は18日、0.25%の利下げを決めたが、25年のFOMCメンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)は前回から利下げ幅が半減し、0.25%ポイントの利下げに換算して2回にとどまった。さらにパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は会見で「ここからは新たな段階で、追加利下げに慎重となる」と述べ、米株式市場は大幅下落で反応した。

 外為市場では、ドル買いの圧力が一段と高まる方向にシフトするとみられ、対円でも円安が進行すると筆者は予想する。日銀が利上げペースの鈍化を強調するほどに円安が進みやすくなる環境が整ってきたとも言える。19日午後3時半からの植田和男・日銀総裁の会見は、国内だけでなく海外の市場参加者の注目も集めそうだ。

 

 <来年利下げゼロ予想も、市場で渦巻く次の利下げ時期への懐疑>

 すでに内外のメディアが書き尽くしているため、米利下げにもかかわらず米株が大幅に続落し、19日の日経平均株価も3万8000円台に水準を切り下げていることにはあまり言及しない。

 ただ、今回のFOMCの決定で国内メディアが見逃していることがある。それは25年の政策見通しで1人のメンバーが「据え置き」を予想したことだ。

 メンバーの中央値は来年の2回利下げ(0.25%を1回とした換算)を予想しているが、それでは次回利下げはいつか、という問題が生じる。1月はスキップするとして3月に本当にできるのか──という根本的な疑問が市場で浮上したと指摘したい。

 据え置きというメンバーが登場したということは、米インフレの粘着性が相当に強く、場合によってはしばらくは利下げ停止の可能性もあるのではないか、と市場参加者の少なくない人たちが感じ、米長期金利の上昇と米株の下落につながった、と筆者は分析する。

 実際、パウエル議長の会見終了後、市場の織り込むの利下げ回数は事前の2回から1回に減少した。

 

 <トランプ関税の影響織り込んでいないFRB、高まるドル高・円安圧力>

 これをドル/円から見ると、ドル上昇圧力の増大とみなすことが可能だ。さらにトランプ次期米大統領が公約通りに関税を引き上げれば、米国内の物価が上がるのは避けられない。パウエル議長は18日の会見で「関税の影響について結論を出すのは尚早」と述べ、FRBの見通しにトランプ関税の影響が入っていないことを認めた。

 トランプ関税の影響が加味されれば、物価見通しが上振れし、25年に2回の利下げ見通しがさらに修正される可能性が高まる。

 このような見方が市場で広がれば、ドル高・円安の圧力が高まることになる。これまで指摘した点は、17日の当欄で予想した展開とほぼ同様の軌跡をたどっていると言える。

 

 <日銀総裁会見の注目ポイント>

 これから明らかになる12月金融政策決定会合で、日銀は政策維持を決めると予想されるが、19日午後3時半からの会見で、植田総裁がどのような発言をするかによって、円安が進むのか一進一退になるのかという大きな分かれ道を迎えることになる。

 次の政策変更、つまり利上げの時期に関連し、1)米国の政策を見極めたい、2)春闘の賃上げの動向も注視ている──ことを強調した場合、マーケットは来年1月利上げの可能性が後退したとみて、11月15日に付けた156.75円を目指して円売りが活発化すると予想する。

 一方、オントラックで経済状況は進行している点を強調すれば、1月利上げの可能性に関して市場の織り込みが維持ないし増大して、円安進行が止まる展開も想定できる。

 きょうの日銀総裁会見は、いつも以上に植田総裁の発言の微妙な変化まで補足する必要が出てきた。

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