ヒルネボウ

笑ってもいいかなあ? 笑うしかないとも。
本ブログは、一部の人にとって、愉快な表現が含まれています。

腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 27 「そいつ」(2)

2021-11-23 18:12:07 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

            27 「そいつ」(2)

「そいつ」は開かれた。同時に閉じられた。箱の中には小さな生き物がいた。「箱の中には小さな生き物がいた」と本に記されていた。そんな本を小さな生き物が読んでいた。と、本に記されていた。小さな生き物は、開かれた箱の中で慌てふためき、隅にうずくまり、小さくなって本を貪るように読み始めた。と、本に記されていた。出られない。無理だ。とても無理。絶対に出られない。

やっぱり終れないね。

「そいつ」は街路樹の枝にうまく載った。

うますぎるけど、まあ、いいか。

バキューン! 

ぱらぱらとあちこちの部屋で点灯。二階の窓が上がり、全裸の女が身を乗り出す。オッパイのサイズは……

そっちかよ。いいけど。

「どうした?」

男の声。

「あれ、何かしら」

「ああ。本だろう」

「本なんか、もう読み飽きたわ。箱じゃなくて?」

「箱なんか、邪魔になるだけだぜ」

「そうね」

「じゃ、続けよう」

「いやよ」

「どうして?」

「やり直し」

消灯。

悪くないけど。ううん。どうしよう。やり直し? どこから? 

「そいつ」は、なぜか、地下に落ちている。地下道は迷路だ。所々、崩れている。迷路にはいろんな物が落ちている。役に立つ物もあれば、そうでない物もある。拾えば却って邪魔になる物もある。その「それ」に誰かが近づく。拾うか。拾わないか。拾うとしたら、何者か。勇者か。シャーマンか。歌手か。商人か。詩人か。異星人か。司書か。あなたか。

と、こんなんでよろしいかな? 

(終)

 

 

 


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腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 27 「そいつ」(1)

2021-11-23 00:07:01 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

            27 「そいつ」(1)

靴を見ている。手を伸ばす。手と靴の間に杖が差しこまれた。元工兵が靴を拾い、受話器みたいに耳に当てた。

「もしもおし。こちら異星人対策室の者ですが、聞こえますか」

元司書が靴を奪おうとする。

「そいつをこちらに寄越せ」

その声は別の場所から届いた。街路樹の前に元刑事が立っていて、拳銃を見せびらかす。彼の言う「そいつ」とは、本のような箱、あるいは箱のような本のことだ。「そいつ」としか言いようがなかった。急いているからだが、本でも箱でもなかったら恥だからでもある。恥以前に、通じないと困る。

元工兵は「そいつ」を自分のことだと誤解した。叩けば埃の出る体だ。元工兵は半歩退いた。元刑事は一歩前に出た。元工兵は消火栓に腰を掛けた。元刑事の拳銃は、右に左に揺れた。元工兵の杖はさっきからきっちりと水平に保たれている。受話器は耳に当てたまま。腐った林檎のような匂いがする。不快だが、耐えられる。なぜだろう。元刑事は杖が弓であることを見破っていた。さすがだ。元司書は箱のような本のような箱のような「そいつ」を喉のあたりに当てた。「そいつ」が防弾の役目を果たすとでも思っているのか。ふざけるな。ところが、「そいつ」を放り投げた。その放棄が合図だったかのように、二人の男は同時に引き金を引いた。

バキューン! 

元工兵は銃弾を受けて転がった。元刑事の胸には矢が突き刺さった。元工兵は何の痛みも感じなかった。元刑事は矢羽に触れた。元工兵は自分の赤く染まりつつある腹を見た。元刑事は含み笑いを始めた。元工兵は何人もの死者を見ているので、自分がやがて死ぬことを悟った。ああ、死ねる、やっと。元刑事は、頭と足の裏だけで全身を支えていた。痙攣し、仔馬のように跳ねる。もう何も考えられない。彼は幸福だった。それが矢尻に塗られた猛毒のせいかなどと考える余裕はなかった。彼は口から泡を吹きながら、しばらく泣き叫んでいたが、突然、ブリッジのまま、凍ったように動かなくなった。頭の周りに赤黒い液体が広がる。

元司書は項垂れて、その場を離れた。

「君たちを軽蔑する。君たちを軽蔑する。君たちを軽蔑する」

後姿を見た者は、彼を異星人と思ったに違いない。肩から上に何もないようだったからだ。

パトカーのサイレンが近づく。二つの死骸が運び去られた。そして、「そいつ」は……

ちぇっ。どうしよう。「そいつ」は、ええっと、新米の警官が拾った、と。しかし、何だか、わからないから、科学捜査官に…… 

ああ、つまんねえ。

つまんねえ。つまんねえ。つまんねえ。

終れねえよ。くそ。

もっと殺すか? 

誰にしよう? 

ええっと、そうだな。

ええい。面倒だ。人類滅亡! 

パッキーン。地球が捻じれて割れたぜ。まっぷたつ。

あははは。林檎みたい。

食うかい? 

(続)

 

 

 


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