萌芽落花ノート
34 帰郷
汚れた壁に去年の暦が掛かっている。
「ところで、これからどうするつもりだ」と父が言った。
縫物をしていた母は黙って立ち去った。
古い畳の縁に新しい針が一本落ちている。
「どうにもならないか」
私は、父を見ず、針を見ず、汚れた天井に顔を向けた。
「いや、どうにかなりますよ、きっと」
母が古い盆に新しい何かを載せて戻って来た。
「ふんっ」と父は笑った。
私も笑った。
母が遅れて笑った。
(終)
萌芽落花ノート
34 帰郷
汚れた壁に去年の暦が掛かっている。
「ところで、これからどうするつもりだ」と父が言った。
縫物をしていた母は黙って立ち去った。
古い畳の縁に新しい針が一本落ちている。
「どうにもならないか」
私は、父を見ず、針を見ず、汚れた天井に顔を向けた。
「いや、どうにかなりますよ、きっと」
母が古い盆に新しい何かを載せて戻って来た。
「ふんっ」と父は笑った。
私も笑った。
母が遅れて笑った。
(終)