ヒルネボウ

笑ってもいいかなあ? 笑うしかないとも。
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萌芽落花ノート 34 帰郷

2025-02-23 23:43:54 | 

   萌芽落花ノート

  34 帰郷

汚れた壁に去年の暦が掛かっている。

「ところで、これからどうするつもりだ」と父が言った。

縫物をしていた母は黙って立ち去った。

古い畳の縁に新しい針が一本落ちている。

「どうにもならないか」

私は、父を見ず、針を見ず、汚れた天井に顔を向けた。

「いや、どうにかなりますよ、きっと」

母が古い盆に新しい何かを載せて戻って来た。

「ふんっ」と父は笑った。

私も笑った。

母が遅れて笑った。

(終)

 


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