ヒルネボウ

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萌芽落花ノート  20 壁と花

2024-12-20 23:21:59 | 

   萌芽落花ノート

    20 壁と花

四畳半の四つの壁は、鬩ぎ合いによって立っている。いつか、そのどれかが僕に倒れ掛かる。どれか? どれ? 

あれか? これか? どれもか? 

どれもが、僕に向かって傾いている。

天井が落ちてきそうだ。

逃げよう。でも、どこへ? 

電車を待つ。まるで霊柩車を待つように。

乗客たちは死んでいる。生きているという証拠がない。車内に臭気が漂う。その波線が確かに見える。向いに座った中年女が、僕を睨む。臭いの発生源は僕だとでも言うのか? 僕が死んでいるとでも? 

行く当てがない。結局、萌芽落花に墜ちる。

しかし…… 

しかし、だよ、なぜ、なぜ、造花を飾るのか。臭わないからか。

「あの、なぜ……」

「えっ?」

「いや、何でもない」

「はあ」

「あの、あれは……」

「どれ?」

「あの花」

「花?」

「いや、いい。もう、いい」

「花……」

指差した方向に、花はなかった。

もう、帰ろう。

でも、どこへ? 

花のある部屋へ? 

花のない部屋へ? 

壁のない部屋がいい。

どこであれ、そこで僕は死んでいる。

潜れるのは棺だけだ。

いつからか、僕は死んでいたらしい。

ゆっくりと蓋が被さる。

(終)


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