漫画の思い出
花輪和一(28)
『護法童子・巻之(二)』(双葉社)
「旅之拾 炎の転宝輪」
「転宝輪」って何?
*
釈尊が説法して人々の迷いを砕くことを、戦車が進んでいって敵を破ることにたとえたもの。現在のインドの国旗にある輪は、この法輪をデザインしたもの。
(『ブリタニカ国際大百科事典』「転法輪」)
*
この「戦車」は「ウマに引かせる古代の戦闘用の車」(『ブリタニカ』「戦車」)だ。
ところが、この作品では、説法ではなく、UFOみたいなのが出現する。そのおかげで善人は救われ、悪人は「ばか」になる。
「ばか」というのは、スケベの男女が合体した姿だ。「できそこないの阿修羅みたいだ」と、庶民は嘲笑する。庶民は変人を恐れず、「ばか」という。
「阿修羅」って何?
*
仏教では天竜八部衆の一つとして仏法の守護神とされる一方、六道の一つとして人間以下の存在とされる。絶えず闘争を好み、地下や海底にすむという。
(『広辞苑』「阿修羅」)
*
この「ばか」は「人間以下の存在」の阿修羅で、護法童子は「守護神」の阿修羅と解釈したら、さあ、どうなるか。護法童子は少年と少女が合体して出現するのだから、庶民には「ばか」と区別できまい。
冒頭、男女が青姦をしていた。その近くに護法童子が舞い降りて、少年と少女に分離する。一方は不倫で、一方は無邪気。裏表のようで、実は見解の相違に過ぎないか。
不倫の男女を罰するために「転宝輪」がデウス・エクス・マキナみたいに出現する。護法童子はこれに乗り込んで事件を解決する。ただし、その前に、護法童子は大日如来と霊的に通じていたみたいだ。
もしかして、大日如来は両性具有かな。
*
日本では、明治初期に発令された神仏分離令により、神道と仏教が明確に分離されるまで、大日如来は天照大御神と同一視されていた。すなわち天照大御神は衆生を救うためにとる、大日如来の仮の姿だと考えられていたのである。専門用語でいえば、大日如来は天照大御神の本地仏(神本来の姿である仏や菩薩)である、ということである。ともにこの世を活かす最高存在であれば、神道や密教という枠を超えた信仰があっても不思議ではない。
宇宙最高の神である大日如来は、その力も卓越したものと考えられ、この如来を尊崇すれば、あらゆる霊徳を得られるとされるが、特にその真言を唱えれば、一切の病は癒え、また妊娠している人は、無事安産できることが約束されている。
(大森崇『密教の本』)
*
例の少年と少女が大日如来の智拳印を結んで、「オ~ン バザラトダバ~ン」と唱え、二人で印を結ぶ。少年が右手、少女が左手。これは性的合体の象徴だろう。
*
左手は衆生を、右手は仏を象徴しており、衆生の煩悩が仏の智慧の境地に入ることをあらわしている。
(知的発見!探検隊『あらすじとイラストでわかる密教』)
*
少女が仏で、少年が衆生か。
ただし、「まれに左右が逆のこともある」(『仏教辞典』「智拳印」)そうだ。
二人が合体して護法童子になると、夫に浮気をされていた病気の女が元気になる。
*
「よっ! もう ぴんぴん」
(「旅之拾 炎の転宝輪」)
*
彼女は病気だから浮気をされていたみたいだが、浮気をされたから病気になったのかもしれない。
作者は、神仏習合を復活させようと企んでいるのか。あるいは、自分と大日如来を同一視しているのか。
*
「あっ! 大日如来 さま ですか」
「ううん まあそのう…… なんと 言ったらいいか」
(『護法童子 巻之(一)』「旅之壱 呪文月を巡るの巻」)
*
何とか言えよ。
*
両性具有。古代ギリシャの哲学者プラトンの「饗宴」で、人間の祖先の形とされる、男女が一体となった球形の姿。神の怒りに触れて二分されて以来、男女は互いに求めあうようになったとするもの。
(『日本国語大辞典』「アンドロギュノス」)
*
護法童子の股間は、どうなっているのかな。
(28終)