文字が大きいのは良かったけど、
疑いながら読み進むのはけっこう苦痛だね
作品構想が自前なら出色、の作品も
山歩きや株式投資など幅広い記事をUPしておられる新潟のタックさんが、いつだったか、だいぶ前に、『さよなら、田中さん』(鈴木るりか著 2017小学館) という執筆当時中学2年生女子14歳の小説集を紹介しておられました。⇒調べたら、去年の12月でした。キャッチコピーをUPするために、リンクさせていただきました。
https://blog.goo.ne.jp/takx007/e/8c4e2e5cdea3914d54cabaa98952129f
その記事でタックさんは、るりかちゃんの作品の出来に感心しておられました。ご自身がかなりの創作的書き手である方の評価ですから、へえ、将棋だけじゃなくて文芸分野でもそんな有能な若者があらわれたのか、とずっと気になっていました。しかし、最寄りの図書館の蔵書にはあるにはあるが、常に貸出中でした。それで本屋で買うというところまではいかず、そのままになっていたのです。
というのは、かなり前の話ですが、執筆当時15歳という三好万紀ちゃんの著作 (これは小説ではなく、和歌山カレー事件にかかるドキュメント風の作品でしたが) にいたく感激したところ、間もなく父親が執筆という疑惑が巻き起こったという苦い経験があったからです。「ひとの原稿をネタに長らくメシを喰ってきたおらの文章を見る眼力って、そんな程度やったんやね」と、大変に落胆してうつむいたことを鮮明に覚えております。
そんなわけで、今回の著者が14歳、15歳、16歳で出した3冊の本には関心があったのですが、ごく最近まで手にとることはなかったのです。ところが、先日、コロナ禍で閉館していた図書館がオープンしたというので行ってみましたら、問題の本が、それも3冊揃いで置いてあったのです! じゃーん!
この鈴木るりかちゃんというのは、2020年現在、高校2年生。小学4、5、6年の時に、小学館「12歳の文学賞」つうのを3年連続で受賞したとのことで、そのうち4、6年生の時に受賞した2作品が「大幅に改稿 (そういう但し書きあり)」 されて、第一作に収載されています。他の作品はすべて書き下ろしと説明されています。
同じ人物を3年連続で選ぶつうのは、どういうことなのか、おらには理解できませんが、とにかくそういう逸材であるということなのでしょうね。
で、おらの読後感ですが…。この程度の年代のこどもの世界を描く作品というのは、例えばS・キング『スタンド バイ ミー』をはじめ、大人の回想として記される場合がほとんどだと思われます。ところが、るりか本では、同じ世代を同じ世代の著者が客観的に眺めて書いているわけです。従来、おそらくこの年齢層の著者では無理だった著述が実現されたのかもしれませんね。これは特筆されると感じました。
ただ、登場人物のなかの大人の台詞、「 」の中のやつね、これがやはり著者年齢の尋常なる知見とはかなり乖離があるように感じました。誰かの手が当然ながら入っています。いくらなんでも、これは、というのもあります。しかし、いい年こいた大人の著作だって、編集者の手がかなり入ることは別に珍しくありませんし、この著者がへいぜい、身の回りの大人のしゃべりを相当量メモッて残している、とすれば、納得できるわな、と思います。
最後にネタバレしないように一点書いておきますが、もし著者自身の構想で第3作の最後に収められた「オーマイブラザー」を書き下ろしたとすれば、るりかちゃんの将来を大いに期待したいと思います。ここで描かれているのは、これら3点の著作にしばしば登場する人物のことだからです。
(なんと言っても、おらにとって良かったのは、子どもも読む本だからなのか、或いは原稿量の関係で、本の束(つか=厚さ) を出すためなのか、使われている文字が大きくて、めがねなしで読めたことでした。みなさまも、お近くの図書館でどうぞ。)