いちごは待っていた。
いつものようにビニールハウスの中で。
その美しさ、おいしさに、誰もが顔を輝せ、その素晴らしさを讃えることを。
子供も大人も笑顔になる。幸せになる。
こんないい仕事があるだろうか。
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いちご農家の若き3代目が、悩んでいる。
手塩にかけた自慢のいちご。
今年もいちご摘みを開くことができなかった。
期間限定のいちごカフェも、ジェラート作り体験も。
こんなに立派に実っているのに。
命の限り、実っているのに。
ああ、悩ましい。
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ふと見ると、
ビニールハウスに整然と並ぶ素焼きポット。
かわいらしいなと思って見ていると、
小さい葉っぱがぽわんと飛び出しぐんぐん成長し、
あれよあれよという間に、つやつやのいちごが実り出す。
そこからがまた面白い。
よくよく見ると、
一つ一つに、小さい名札が。
〇〇さんち行き。
△△先生宅行き。
☆☆お誕生会さま行き。
全てのポットにいちごが育ち、一つ一つに行き先のお名前が。
そして、広告の文字が・・・
素焼きポット回収サービス付き、
『お好きな場所でいちご摘みセット』。
お名前を付けてプレゼントにも。
いちごフォンデュ付きセットもございます。
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目を開ける。
「3代目、いちご、こっちから行きましょうか」
しばし沈黙の後、輝く瞳の3代目。
「いちごのポテンシャル、まだまだあるやん!」
頑張れ、3代目!
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