題名を見て一瞬,アキバ系雑誌に載ったメイド喫茶の特集が脳裏を横切りましたが,今期の芥川賞受賞作品です(^^)
華やかで裕福な生活が望めなくなった現在も経済力第一の価値観や享楽的な生活から抜け出ることができず,根拠もないまま,いつか贅沢な暮らしが復活すると夢想し続ける母弟がいる.その肉親を嫌悪しながらも受け容れ続ける奈津子は夫太一が脳の病により退職したため,彼の障害年金とパート収入をたよりにつましく生活せざるを得ない日常をかかえている.そんな彼女が,かつて自身も家族と共に贅沢を味わったホテルへの夫婦一泊旅行を思い立つ,その顛末を描いた作品です.
裕福な客だけが利用できたかつての高級ホテルはいまや一泊5000円の区の特約保養所も兼ねる存在に変わっていました.奈津子のホテルに対する関心は母弟に対する思いに,そしてホテルの有り様は落剥してしまった彼らの生活のストレートな暗喩となっています.母の何不自由なかった時代に拘泥しつづける態度や弟の夜郎自大で無自覚な言動を間違っていると感じながらも黙認し続ける奈津子は,どこかモーパッサンの「ジュール叔父」中の「わたし」を連想させます.どちらも拝金主義の俗物家族の中で淡々と現実を述べる存在です.彼女が見出した,夫がすべての事をあるがままに受け容れる「聖」性は,困難さをともなう日常の中に希望を与えます.この終盤に顕在化する夫の持つ能力はありていに言えばかつて渡辺淳一氏が提唱した「鈍感力」ではないかと思ったりもします.
華やかで裕福な生活が望めなくなった現在も経済力第一の価値観や享楽的な生活から抜け出ることができず,根拠もないまま,いつか贅沢な暮らしが復活すると夢想し続ける母弟がいる.その肉親を嫌悪しながらも受け容れ続ける奈津子は夫太一が脳の病により退職したため,彼の障害年金とパート収入をたよりにつましく生活せざるを得ない日常をかかえている.そんな彼女が,かつて自身も家族と共に贅沢を味わったホテルへの夫婦一泊旅行を思い立つ,その顛末を描いた作品です.
裕福な客だけが利用できたかつての高級ホテルはいまや一泊5000円の区の特約保養所も兼ねる存在に変わっていました.奈津子のホテルに対する関心は母弟に対する思いに,そしてホテルの有り様は落剥してしまった彼らの生活のストレートな暗喩となっています.母の何不自由なかった時代に拘泥しつづける態度や弟の夜郎自大で無自覚な言動を間違っていると感じながらも黙認し続ける奈津子は,どこかモーパッサンの「ジュール叔父」中の「わたし」を連想させます.どちらも拝金主義の俗物家族の中で淡々と現実を述べる存在です.彼女が見出した,夫がすべての事をあるがままに受け容れる「聖」性は,困難さをともなう日常の中に希望を与えます.この終盤に顕在化する夫の持つ能力はありていに言えばかつて渡辺淳一氏が提唱した「鈍感力」ではないかと思ったりもします.
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