*敬称略 悪しからず
時代小説作家として、直木賞は受賞したものの、まだ売れっ子
になる前の藤沢周平、昭和50年初めの頃の話である。
どんな本を読み、好きな作家はいたのだろうか?
藤沢「「ジャッカルの日」や「オデッサファイル」なんか読みますよ。
面白いですからね。チャンドラーなんかも・・」
なるほど、そういえば「彫師・伊之助」なぞに雰囲気が出ているナ~
藤沢「伊藤圭一さんなんかいいですよね。大学の先生と作家の兼業で
うらやましい。小説だけに集中しているのはね~・・・」
藤沢「他の作家の時代小説は、直木賞受賞後はあまり読まないですね。
時代小説には「鴎外病」「周五郎病」というのがあって、どうしても
真似が出る事が有るんですよ。"高瀬舟"とか"婦道記"の影響がね~」
藤沢の作品は、士道ものにしても市井ものにしても、独自の世界を
描いていく。
藤沢「「赤穂浪士」の話というと、大佛次郎さん。
「宮本武蔵」は吉川英治さん」という、凄い作品が有るでしょう。
だから、私が書くとしたらネ~、どうかくか・・まだね・・」
藤沢は、この時期まだ雌伏の時代だったようである。
再初期の作品の多くの話は、のちの作品の中で、少しづつ形を変えて
出てくる。それは暗味が薄れて行くにしたがって、作品の明るさに
通じていくのだが、時折、思い出したように姿を現すのは"業"の
なせるところだったのだろうか。