前回その1 の続きです。すでにまったく「5分でわかる!」感じじゃなくなってきてすみません。
2017年
11月
●ドイツ『デア・シュピーゲル』インタビューでの舌禍事件
ドイツ『デア・シュピーゲル』誌のインタビューで、性的虐待の告発を受けたオスカー俳優のケヴィン・スペイシーについて「必要もなく攻撃されている」と語り、彼を擁護したとして非難される。同インタヴューの中で、ドナルド・トランプ大統領のことは「彼は指導者などではない。社会の害虫だ」と語り、彼を殺すボタンがあれば「人類の安全のため」に押すとも語った。
そりゃトランプは大っ嫌いなわけで…
この報道に対してモリッシーは、自身の発言がねじまげられて伝えられたと激おこ。「二度と紙媒体のインタヴューを受けない」と反論したものの、それに『デア・シュピーゲル』も激おこ。12月にはモリッシーの生オーディオ音声公開の泥仕合に。
これ、ケヴィンの擁護っぽいのがかなり「おやじ、やっちまったな」感ですけど、そもそもモリッシーが言いたかったのは「ケヴィン・スペイシーは当時26歳で、少年は14歳だった。疑問なのは、少年の両親はどこにいたんだ?少年はこれから何が起きるか予測できなかったのか?」ってことで「予測して、自分の身は自分で守ろう。誰でも標的になり得る」ってことだったと思うんです。
でもやばいヤツ(ここではケヴィン)の標的にされた場合、その子に落ち度があったんじゃないかというのは絶対に違うと思いますけどね。悪すぎなのはケヴィンなわけで。そこは区別して話さないとダメじゃん、モリッシーと思います。昨今のジャニーズ報道なんか見ていても、よくこの事件思い出します。
12月
●ファッション誌『GQ』が選ぶワーストドレッサー5位に選ばれる
(って、これをここに挟む必要があるのか)
●数々の批判に対してYoutubeに8分間のメッセージ動画公開
12月18日、まず“Low in High School”購入の御礼を述べ、
「自分が突然、セクシャル・ハラスメントや小児性愛やレイプに共感している人みたいになっているけど、違う。自分の音楽を人が聴かないよう説き伏せるため、自分があらゆるやばいものに共感しているみたいになってるけどそれは嘘。でも今生きている世界は活字メディアとともにある。人が本当に聴いているもの、意志を反映したものについて語ろうとすると、腹を立てられたり神経質になられる。本当に言いたいことが分かっている人なんて誰もいないように感じる。言論の自由が否定され、あらゆるものについての開かれた議論が否定される。そのために、全員混乱に陥って、自らの立場を見失ってしまっている」(スピード要約)
と語っています。
ケヴィン事件はやっちまったなだったけど、このモリッシーのメタな理屈にはうなずけると思ったのでした。失言をメタな理屈の正当性で回避、という不思議なクリスマスプレゼントでした。
Morrissey's December Speech - 2017
この事件以降、モリッシーは一般メディアのインタビューは受けなくなります。公式サイトで「自作自演」ぽいインタビュー掲載したり、お抱えジャーナリストにインタビューさせます。でもメディアは邪魔してくる、レコ―ド会社も守ってくれない(だって契約してないし、契約してても…)、裸一貫、自分しか頼るものもないという決意で自分の責任で「自分」ブランドを売るんだから、それはDIY精神的に納得のいく選択だと思いました。
2018年
3月
●3月28日、自分の公式ウェブサイト「Morrissey Central」開始
甥っ子のSam Esty Rayner がウェブマスターなようですが、これがまた本当に見にくい。もう慣れたけど・・・一時的なデザインかと思ったら5年以上この形式で、そしてサイト自体も続いています。モリッシーからの公式発表やメッセージはまずここに出される。ファンの撮った写真や動画、最近多い、アーティスト訃報なども。ここは完全モリッシーキングダム。言論の自由が保たれているので安心して読んでいられます(見にくいけど)。
TOP画像はモリッシーの敬愛する、作家であり公民権運動家のジェイムス・ボールドウィンです。
モリッシーは1986年スミス時代、バルセロナのホテルで、生ジェームズ・ボールドウィンに会ったそう。2017年のインタビューでは当時を振り返って、
「私の舌は、恐怖で口の上っ側に張り付いた。こんにちは、という勇気がまるでなかった。
私は当時、とても、とても鈍かったんだ。だからただ彼を見た。そして時が過ぎるのを待った。
私にとって、彼はアメリカ大統領より重要な人物だったんだ」
と語っていました。『モリッシー自伝』にもこの時の震えるような感慨が出てきます。
よくモリッシーのことを「差別主義者め!」と言う人がいて、どう思おうとべつにいんですが、じゃあなんでモリッシーは自分の言論の自由が保たれている地球で唯一の聖域みたいな場所のTOPをボールドウィンにしているの?と聞きたい。「差別」ってなんでしょう??ボールドウィンがどんな人か知れば、モリッシーがいわゆる「差別主義者」なのかどうなのかわかります。
下記ブログでも書いたボールドウィンの映画を観て以来、「え、でもモリッシーって差別主義で右翼でとにかくヤバいんでしょ!?」と言ってくる人に言う言葉は決めてあります。
「私のモリッシーはあなたのモリッシーではない」
こちらの記事もご参考に↓
7月
●『お騒がせモリッシーの人生講座』刊行
7月15日、イースト・プレス社より、『お騒がせモリッシーの人生講座』を刊行しました。「7年のモリッシーの軌跡」とはちょっと違って手前味噌だけど、この本の発刊もモリッシー来日諸々にからんでるんで書かせてください。
実はこの編集担当のMさんは今回のモリッシー来日公演が決まった日、遠くに旅立ちました(生きています)。2012年の来日時にこのブログを読んで私のことを知ってくれて、「いつかモリッシー本を一緒に作れるといいですね!」と言ってくれ、なんだかんだで先に始まった自伝翻訳が困難を極める中、2016年に一緒にモリッシー観て…
モリッシーを観たり、彼の色々なことを考えたりするとアクションが促進され…この本を作ったのでした。それ語り出すと終わらないのでこれで。ちなみにMさんは11月のモリッシー来日までに帰ってきます!またモリッシーにまつわるアクションを、一緒にできるといいです。
この7年の間には、モリッシー関連の本が日本でも多く発売されましたので紹介しておきます。
いまモリッシーを聴くということ (ele-king books) (2017/4/28)
ブレイディみかこ (著)
ディスクガイド形式ですが、モリッシーという人間が英国という社会や人々の暮らしの中でどのように受容され、英国の政治や歴史とどのように関連しているかわかるのでものすごくおもしろいです!モリッシーファン、必読の書。
私がパワポで作ってブログに貼り付けたこの本の内容を図式化したもの。みかこさんが見つけてくれて、呆れて笑ってましたwww
こちらもご参考にどうぞ↓
ブレイディみかこ著「いまモリッシーを聴くということ」を読むということ
ブレイディみかこ × 野田努 「UKは壊れたようで壊れていない――愛と幻想の雑談」 に行きました!
ジョニー・マー自伝 ザ・スミスとギターと僕の音楽 (2017/9/8)
ジョニー・マー (著), 丸山 京子 (翻訳)
『モリッシー自伝』に比べて、マー読みやすいこと。まず、見出しがある!時系列!何の話かわかる!←それってふつーのことでは…。『モリッシー自伝』でモリッシーサイドのことを読みながら、「で、その時マーは…!?」と裏をとりながら読むと面白いです。そしてその2人のおかれた状況をメタに把握するには、『モリッシー&マー 茨の同盟』(ジョニー ローガン著)が便利です。古本で安く出ています。
モリッシー・インタヴューズ (2018/10/31)
新谷 洋子 (翻訳))
83年のザ・スミス初取材から2010年まで、全キャリアから厳選した珠玉のインタヴュー29本を一挙掲載…!ということで、「これは昔雑誌で読んだな」というものもまとめて掲載されていて、なんの目的なくただモリッシーの言葉の鋭さに触れたい時とか(どんな時それ)ランダムにめくっています。
…ねえ、まだ2018年なんで、あと5年ある。。。
まあ、抽選発表は水曜だったけど、モリッシー来るまではまだまだあるんで、また書きます。続く。
→ 続きはこちら その3