『バッシング』(2005)
監督:小林政広
高井有子:占部房子
高井孝司:田中隆三
加藤隆之、本多菊次朗、板橋和士、
支配人:香川照之
高井典子:大塚寧々
【作品概要】
'04年にイラクで起きた日本人人質事件を題材にしたドラマ。中東で武装集団に拉致された女性と、解放された彼女を非難する周囲の人々の姿を通し、社会のゆがみに鋭く迫る(Movie Walkerより)。
第58回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門公式参加作品
第6回東京フィルメックス コンペティション部門最優秀作品賞受賞作品
第24回テヘラン・ファジル国際映画祭審査員特別賞受賞作品
【感想レビュー】
怖かった。
折しも、これを観る前に『舟を編む』を観ていたのでなおさら…。
言葉は、時には人に寄り添うものであり、時には人に刃を向けるものなのだなと、再認識しました。。
北海道の海辺の町に暮らす有子。
鉛がかかった空、海から吹きさす風の音。殺風景とも思える背景。
…人々の誹謗中傷。
自転車で風をきる有子。
車輪部分の鮮やかなショッキングピンクが、浮いて見えるようだった。
抑圧された閉鎖的な町の中で、そこだけが異彩を放っているように見えた。
有子は、頑な、頑固、意固地だ。決して、とても愛されるキャラクターには映らない。
主人公をあえて客観的に撮ることで、その他の人物との関係性やそれぞれの意見が、単なる誹謗中傷ではなく、説得力をもって、観ている者に考える機会を与えていると思う。
登場人物達が、直接、有子に言う台詞は、どの感情も意見も、世間一般でよく言われそうな事だ。
それは、本音のところではそういう風に考える人もいるのだろうな…という意味で。
例えば、この人物の言う事は共感出来る。また、この人物の言う事は、半分は共感出来るけど、半分は違うと思う。あるいは、ちっとも共感出来なかったり、する。
そうして映画が問いかけてくる。
あなた自身は、あの時、あの後、どう思っていましたか?
有子に、いたずら電話や脅迫電話をしたり、店の者が出入りを禁止にしたり、仕事をクビにしたり…。そこまでやらない、そこまでは出来ない直接関わりのない『世間』の空気が、その空気の圧力が飽和して、直接関わりのある人達の一部にネガティブ後押しをしたのではないか…そんな風に思った。
特に、有子が交際相手だった彼に、別れ際に言われた言葉は胸に刺さった。
この町で困った人を助ければいいと。何も危険地帯に行かなくても、この町で出来ることはあると。
どうして胸に刺さったのだろう。
自分自身の漠然とした思いの中に、重なる部分があるからではないのか。
当時、私自身はこの事について、危険地域で活動していたのだから自己責任だ、などとそこまで強くは思わなかった。
むしろマスコミの報道の仕方や世論が、一方へ傾いて行くのを薄気味悪くさえ思っていた。
そして、そんな自己責任論よりも政府は一刻も早く彼らを救出しなければいけないのに、と歯がゆくも思っていた。
けれども、すべてはバランスだよなぁ…と思っていた事は否めない。こうして、宙に浮いたその時の感情は、漠然とした社会に対する不安になっていったように思う。
掴むことの出来ないとりとめのない空気が、国家が、特定の一般市民をとことん追い詰める事が出来るという事を肌で感じた出来事でもあった。
有子を演じる占部房子さんのヒリヒリする演技が素晴らしかった。観終えた後に色んな事を考えさせられる映画です。
先日観た、『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』も然り。改めて、折に触れて考え続ける事に意味があると思いました。
監督:小林政広
高井有子:占部房子
高井孝司:田中隆三
加藤隆之、本多菊次朗、板橋和士、
支配人:香川照之
高井典子:大塚寧々
【作品概要】
'04年にイラクで起きた日本人人質事件を題材にしたドラマ。中東で武装集団に拉致された女性と、解放された彼女を非難する周囲の人々の姿を通し、社会のゆがみに鋭く迫る(Movie Walkerより)。
第58回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門公式参加作品
第6回東京フィルメックス コンペティション部門最優秀作品賞受賞作品
第24回テヘラン・ファジル国際映画祭審査員特別賞受賞作品
【感想レビュー】
怖かった。
折しも、これを観る前に『舟を編む』を観ていたのでなおさら…。
言葉は、時には人に寄り添うものであり、時には人に刃を向けるものなのだなと、再認識しました。。
北海道の海辺の町に暮らす有子。
鉛がかかった空、海から吹きさす風の音。殺風景とも思える背景。
…人々の誹謗中傷。
自転車で風をきる有子。
車輪部分の鮮やかなショッキングピンクが、浮いて見えるようだった。
抑圧された閉鎖的な町の中で、そこだけが異彩を放っているように見えた。
有子は、頑な、頑固、意固地だ。決して、とても愛されるキャラクターには映らない。
主人公をあえて客観的に撮ることで、その他の人物との関係性やそれぞれの意見が、単なる誹謗中傷ではなく、説得力をもって、観ている者に考える機会を与えていると思う。
登場人物達が、直接、有子に言う台詞は、どの感情も意見も、世間一般でよく言われそうな事だ。
それは、本音のところではそういう風に考える人もいるのだろうな…という意味で。
例えば、この人物の言う事は共感出来る。また、この人物の言う事は、半分は共感出来るけど、半分は違うと思う。あるいは、ちっとも共感出来なかったり、する。
そうして映画が問いかけてくる。
あなた自身は、あの時、あの後、どう思っていましたか?
有子に、いたずら電話や脅迫電話をしたり、店の者が出入りを禁止にしたり、仕事をクビにしたり…。そこまでやらない、そこまでは出来ない直接関わりのない『世間』の空気が、その空気の圧力が飽和して、直接関わりのある人達の一部にネガティブ後押しをしたのではないか…そんな風に思った。
特に、有子が交際相手だった彼に、別れ際に言われた言葉は胸に刺さった。
この町で困った人を助ければいいと。何も危険地帯に行かなくても、この町で出来ることはあると。
どうして胸に刺さったのだろう。
自分自身の漠然とした思いの中に、重なる部分があるからではないのか。
当時、私自身はこの事について、危険地域で活動していたのだから自己責任だ、などとそこまで強くは思わなかった。
むしろマスコミの報道の仕方や世論が、一方へ傾いて行くのを薄気味悪くさえ思っていた。
そして、そんな自己責任論よりも政府は一刻も早く彼らを救出しなければいけないのに、と歯がゆくも思っていた。
けれども、すべてはバランスだよなぁ…と思っていた事は否めない。こうして、宙に浮いたその時の感情は、漠然とした社会に対する不安になっていったように思う。
掴むことの出来ないとりとめのない空気が、国家が、特定の一般市民をとことん追い詰める事が出来るという事を肌で感じた出来事でもあった。
有子を演じる占部房子さんのヒリヒリする演技が素晴らしかった。観終えた後に色んな事を考えさせられる映画です。
先日観た、『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』も然り。改めて、折に触れて考え続ける事に意味があると思いました。