藤井聡太七冠、豊島将之九段を破り王座戦挑戦 2023/8/4 関西将棋会館

2023-08-08 | 文化 思索

藤井七冠、豊島九段を破り王座戦挑戦 1分将棋が1時間近く続いた大激戦を振り返る
 2023/8/8(火) 11:02配信 デイリー新潮

「はっきりと苦しい局面があった」
 勝った藤井は「終盤になってから、お互いに玉形が乱れて適切な判断ができず、ミスが出てしまった」といつものように反省の弁を口にした。
 今回の挑戦者決定戦に敗れれば、藤井の年度内での八冠達成の可能性は消えるところだった。3年前の棋聖を皮切りに今年6月の名人まで、あっという間に七冠を獲得した藤井だが、王座だけは「鬼門」だった。過去最高の成績は初めて参加した時のベスト4で、あとは早々に敗退。今回、藤井は6回目の挑戦で初めて挑戦権を獲得した。
 藤井は準決勝で羽生善治九段(52)を破って決定戦に登場、初戦(2回戦)では村田顕弘六段(37)に絶体絶命に追い込まれながらも、土壇場の大逆転で勝ち上がっていた。
 会見でこれを問われた藤井は「(村田戦は)終盤、はっきり負けの局面があった。本局もいくつかはっきりと苦しい局面があった。全体的に内容はよくなったとは言い難いけど、時間がなくなってから辛抱強く指せたのはこれまでと比べてよかった」と話した。
 王座への初挑戦については、「王座戦では、ここ数年は結果が全く出せていなかったので、挑戦できることはうれしく思います。挑戦できるのは貴重な機会だと思うので、全力を尽くしたいと思います」と決意を述べた。
 豊島は昨年に続く2年連続での永瀬王座への挑戦権は得られなかった。局後「チャンスを逃していると思います。もうちょっとうまく指せそうな局面も多かった」と静かに振り返った。
 藤井と豊島の公式戦での対戦成績は、これで藤井の22勝11敗となった。

1分将棋が1時間近く続く
 振り駒の結果、藤井が先手。最近の藤井は、先手に恵まれることが多いようだ。
 豊島は歩で角道を止め、藤井が得意の「角換わり」を避けて「居飛車」戦に持ち込んだ。角を自陣の1段目に引いた後、「7三」と右側に据えて勝機を狙った。双方が「雁木」と呼ばれる陣形を選択し、じっくりとした駒組が進んでいった。
 昼食は藤井が豚肉の天ぷらの「珍豚美人」(950円、レストランイレブン)、豊島が親子南蛮そばとおにぎりの「親なん定食(温そば)」(900円、やまがそば)を選んだ。どちらも将棋会館の近くの大衆食堂のもので、対局室でそれぞれが代金を支払った。
 藤井の「6四歩」から戦端が開かれた。夕食の休憩後、双方が持ち時間(各5時間)を使い果たし、1分将棋に突入した後も、1時間近くを戦う大熱戦となった。

 113手目に藤井が「4六銀」を指すと、ABEMAのAI(人工知能)評価値は豊島優勢に大きく傾き、豊島は「7九銀」と下から王手した。しかし、118手目に豊島が「3四玉」とすると、一挙に藤井の勝率が95%に跳ね上がった。しかし、135手目に藤井が「3三歩」とすると、再び6割がたの豊島優勢を示した。その後も五分の戦いになったが、何度も豊島が70%くらい優勢になる局面もあった。

豊島は反省
 しかし、150手目に「6五玉」と豊島が玉を逃がした時、藤井の勝率が97%を示した。

 午後9時過ぎ、159手目に「4五龍」で横から王手をすると、豊島は投了した。双方、1分将棋になってから1時間近くもかかる大激戦だった。

 豊島は「目まぐるしく変わった難しい将棋だったが、チャンスを逃した。もうちょっとうまく指せそうな局面が多かったと思うので反省が多い」と残念そうだった。しかし、ABEMAで解説していた松尾歩八段(43)は「豊島さんのどこが悪かったのか。『6五玉』も自然な手にも見えるけど」などと話し、非常に難しい将棋だったことを示唆した。

 豊島の恩師である桐山清澄九段(75)は「自宅のパソコンで見守っていたけど残念だった。大熱戦で評価値もずいぶんと上下に振れていた。1分将棋になると、どうしてもミスが出ることがある。結果的には失着なのかもしれないけど、『6五玉』は読み切れずに指してしまったのではないかな。今回は終わってしまったけど、まだまだ若いのだからこれからも巻き返していってほしいですね」と語った。

 普段、関西将棋会館の2階は愛好家が将棋を指しに来るが、この日は大盤解説場になった。楽しい語りで人気の福崎文吾九段(63)を中心に、山崎隆之八段(42)、服部慎一郎四段(24)の3人が会場を盛り上げた。山崎八段は「大一番にふさわしい凄い将棋でした」と高揚した様子だった。
最近は五分の戦いの盟友
 藤井と永瀬の公式戦の対戦成績は藤井の11勝5敗だが、直近の8局では4勝4敗と五分の戦いをしている。たしかに最近、藤井に最も強い印象のある棋士が永瀬である。

 規律正しい性格から「軍曹」のあだ名を持つ永瀬は、王座を4期守っており、今季も防衛すれば連続5期(または通算10期)の条件を満たし、他のタイトルの永世称号に該当する「名誉王座」を手にする。名誉王座は過去、羽生善治九段と中原誠十六世名人(75)の2人しかいない。永瀬は栄えある3人目になるべく、藤井の挑戦を受けて立つ。

 そんな永瀬と藤井は、非常に仲の良い研究仲間であることで知られる。昨年は棋聖戦で藤井が永瀬の挑戦を退けている。会見で「永瀬さんにはここまで引き上げていただいた」と感謝した藤井は「手の内は知られている面もある。棋聖戦では永瀬王座が序盤から工夫をされたので、今度はこちらから工夫していければ」と話した。

 盟友同士の注目の五番勝負は、8月31日、神奈川県秦野市の「元湯 陣屋」で幕を開ける。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部 新潮社

最終更新:デイリー新潮

 ◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です


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