【雇用崩壊】「春闘」の影で ~正規と非正規と<上> 正社員の危機感◆「仲間」と思う余裕なし

2009-03-13 | 社会
中日新聞2009年3月11日
◆「仲間」と思う余裕なし
 「本当はコストの安い派遣社員より、おまえらを切りたいんだ」
 トヨタ自動車の下請け部品メーカーで、2月にあった労使の団体交渉中、社長がふと漏らした。労働組合役員を務める40代の男性は、耳からこの言葉が離れない。
 販売不振という形で自動車産業を直撃した世界的な不況。トヨタのおひざ元でもある東海地方は「トヨタショック」に揺れる。年商100億円超の二次下請けメーカーが今月に入って破綻(はたん)、下請けも荒波の真っただ中だ。
 先の労組役員のメーカーでも、トヨタショック前にはピーク時で優に1000人を超えた派遣社員や請負会社社員が200人までに減った。完全に操業を止めた工場もある。
 正社員は残業ゼロ。月60時間残業していたとすると、手取りは20万円もダウン。休業日も月2回増えた。
 職場では、残業ゼロで早く帰宅する夫に子どもを託し、夜のファミリーレストランなどへパートに出掛ける妻が増えたという。労組役員の妻は以前からパートに出ていた。子育てが一段落したから外に出たいという妻の気持ちを尊重してのこと。「でも、今は心底ありがたい」
 製造業で相次ぐ派遣切りに「同じ労働者なのに」と心を痛めていた労組役員は、今年の春闘で、会社への要求書に「派遣社員や請負会社社員の雇用維持にも努めるべきだ」とする一文を入れたかった。だが、入れられなかった。
 「おれたちを切るならまず派遣から切れ、というのが私を含めた正社員労働者の本音。そこを隠して非正規労働者の雇用維持を言うのは無理がある」
 部次長以下の社員で400万-100万円年収がカットされたという別のトヨタ系列会社正社員の男性はこう話す。
 「期間従業員の定着率は悪い。失業しても行政の臨時雇用や人手不足の介護・農業分野への就職を敬遠する非正規労働者は、職に対する危機感が足りないと思う」
 別のある製造業の女性正社員も「派遣社員は契約が切れれば家と職を失うことは分かっていたはず。それに備えて貯金しておくのは彼らの自己責任」と強調した。
 東海地方にあるソニー、パナソニックなどの電機大手の工場も集約や閉鎖に追い込まれた。正社員自らの雇用への危機感が現実味を増す。非正規労働者を仲間として顧みる余裕は、正社員にはない。   ◇   ◇
 政労使が協調して雇用維持に全力を挙げると宣言した今年の春闘は、「雇用春闘」ともいわれる。だが、ワークシェアリング(仕事の分かち合い)など具体的な雇用維持策は一向に見えない。正社員と非正規労働者の目指す道が、重なり合うことはないのか。「総労働」として団結できないのか。雇用崩壊の震源地を歩いた。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。